君が最愛になるまで
俺の視線に気づいたのかその男、いや前田はニヤッと微笑む。
前田が紬希に気があることくらい何となく分かった。


俺が幼なじみだと分かってもなおその態度は変わらず、現に今も挑発するように俺に微笑みかけた。
以前、その話をしたら紬希に俺には関係ないとバッサリ切られたのを思い出す。


昔から真っ直ぐな紬希は言葉もどストレートでいい意味でも悪い意味でも嘘がない。
だからこそ紬希の言葉は誰かに響くんだと思う。


俺はチラッと自分の腕時計に視線を向けた。
そろそろみんなお昼休憩を取るために動き出す時間だろう。


上司である俺が必要以上に紬希に話しかけるのは避けていたため、このタイミングをいつも狙っていた。
ゾロゾロとお昼ご飯を買いに行く部下たちの背中を見送りながら俺は彼女を呼び止める。


「紬希」

「なに?」

「今日の夜、ご飯行かないか?」

「ん〜いいけど」

「なら決まりな。楽しみにしてる。終わったら下で待ってるから」

「了解〜」


紬希は俺の誘いは基本的に断らない。
毎回誘う度になんだかんだついてきてくれるため今回も紬希は断ることなく二つ返事を返してくれる。


紬希の瞳に俺が映ることが嬉しいと思い、早く定時になれなんて思うくらいには楽しみにしていた。


***


「紬希」

「なにー?」

「今日は何食べたい?」

「そうだな。明日休みだからお酒が美味しいとこがいいかも」

「なら焼き鳥でも食べるか?」

「あぁ!いいね。そうしよ」


会社の外で待ち合わせた俺たちは2人並んで夜の街を歩く。
俺の隣を歩く紬希は寒そうに肩をすぼめてに冷たい夜風を堪えていた。


お店に着いた俺たちはカウンター席に案内される。
いつもはテーブル席のことが多いため、肩が触れ合うような距離感のカウンター席は珍しい。


「千隼くん何食べる?」

「んー⋯⋯」

「わ、ハツだって美味しそう。レバーもオススメなんだって」

「ん⋯⋯」

「ねぇ聞いてる?」

「あ、ごめん。紬希の顔見てた」

「はぁ?意味分かんない、メニュー見てよ。突然変なこと言わないで、乱される。その顔面で見つめないで穴空く!」


ほんの少しだけ紬希の頬が赤くなった気がしてそれがなぜか可愛いと思ってしまった。
その気持ちの理由を俺は知っている。


恥ずかしいと口数が多くなるのも昔から変わらなくて、そういうところも分かりやすいな、なんて思えた。
昔から変わらない部分を見るとひどく安心する。


「勝手に頼んじゃうからね。まずはビールでいい?」

「うん。ありがとな」


紬希が色々メニューを頼んでくれて、すぐさま俺たちのテーブルにビールが運ばれてきた。
ジョッキを合わせて乾杯するとゴクゴクと紬希はビールを流し込む。


(いい飲みっぷりだなほんと)


「あのさ紬希」

「ん?」

「俺の事まだ好き?」

「え、なに急に」

「いいから、答えて」

「んー好きだけど少しずつ思い出にしようとしてるよ」

「それって好きじゃなくそうとしてるってこと?俺じゃない別の誰かを好きになろうとしてるってこと?」

「急にどうしたの?そんなこと聞いてくるなんて変だよ」


困ったように笑ってはぐらかそうとする紬希を逃がさないと言わんばかりに距離を詰める。
カウンター席のため離れることはできず、困った紬希は俺の身体を細い腕で押し返そうとした。
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