君が最愛になるまで
「思い出になんかすんな、俺のこと好きでいてよ」

「え?」


真っ直ぐ紬希を見つめて呟くと驚いたように彼女は大きな目を見開いた。
その瞳には俺しか映っていなくて綺麗な二重の瞳が目一杯開かれている。


そんなことを言われる意味が分からないと言わんばかりに紬希は首を傾げた。
それもそうだろう、以前は明確に言葉を返さずに終わったため曖昧にしていた。


その言葉を今更ながら掘り返しているのだから。
紬希は無言で俺の言葉を待っていた。


「今から話す話、聞いてくれるか?」

「うん」

「俺にとって紬希は特別だった。可愛い幼なじみで他の人とは違って特別な幼なじみだった」

「うん⋯」

「俺が高校の時に付き合ってた彼女のこと覚えてるか?」

「覚えてるよ。大学に入っても付き合ってたんだよね?」

「そうだ。だけど大学4年生の頃に別れたんだ。理由は相手の浮気。俺の親友と彼女は浮気してた」


今でもその場面を鮮明に思い出す。
仲のいい友人に俺の彼女が俺以外の別の男と歩いていたのを見たと言われたのが始まりだった。


その光景を見たのが俺の地獄の始まりで、こんな生活が始まったきっかけでもあった。
俺が投げやりになってしまった出来事を思い出す。


***


付き合いも長かったため俺たちはお互いの部屋の合鍵を交換していたんだ。
その日、彼女は友達と遊ぶ約束をしていると言っていたがその予定は嘘だと俺は知っていた。


運命の日、暴れまくる心臓を自分の手で抑えながら彼女の家に行ったのを覚えている。
合鍵を使ってゆっくり扉を開けると中から聞こえてきたのは生々しい男女の交わる声。


艶めかしい嬌声が部屋の中に響き渡っており、その行為に夢中になっているのか当然扉を閉める音なんて聞こえていないようだった。
ゆっくり扉を開けて通い慣れた廊下を通り寝室の扉を開けるとそこには見たくもない最悪の光景が広がっていた。


服や下着は床に散らばっておりベッドの上では大好きな彼女と親友が激しく求め合っている。
俺の姿に気づいた彼女は叫び声を上げ自分の身体を布団で隠した。


「随分楽しそうだね」

「きゃあっ!!なんで⋯ここにいるの千隼⋯⋯」

「そんなことより、この現状の説明してもらっていいかな?」

「えと⋯これは⋯⋯」

「俺の何が不満だったの?大切にしてたんだけど」

「大切にしすぎてたんじゃね?それでつまらなくなって刺激欲しくなってこういうことになったわけ。こいつ本当は激しいのが好きらしいよ」

「ちょ⋯!!」


俺なりに彼女のことを大切にしてきた。
デートもしてたし記念日や誕生日は毎回お祝いをちゃんとして、それなりに身体も重ねてきた。


それなのに嘘をついて俺を騙して他の男とこんな風に交わっていたなんて信じられない。
気持ち悪くて吐き気すら催してしまう。


(あぁ⋯⋯もう、無理だ⋯⋯⋯)


1番信頼していた人たちに裏切られた人間というのは簡単に立て直すことはできない。
その日ポッキリ折れた俺の心はその後、何年経っても修復されることはなかった。


何もかもに絶望した俺はそのまま彼女の家を後にする。
学校では嫌でも彼女と会うし、彼女は何度も謝罪してきた。


一時の気の迷いだと、本当に好きなのは俺だと、だから許して欲しいと何度も泣きつかれた。
だけどそんなことで許せるはずもなく、俺はひたすら拒み続ける。


そのまま彼女とは話すことなく俺たちは大学を卒業した。
その傷は思ったよりも俺の心に強い影を落とし、深い傷を残す。


本気で好きだった。
いずれは結婚するのかな、なんて考えていた時もあったくらいには彼女のことが好きだった。


その一件があってから俺は変わったと思う。
自分でも理解している、最低なことをしていると。


***


「親友と浮気されてヤッてるとこバッチリ見ちゃって、何もかも嫌になった。信頼も愛情も一瞬で全部なくなって、俺の中で何かが消えた気がした」

「⋯⋯⋯」

「こんなにも長く付き合って信頼関係を築いていたはずなのに、こんな簡単に人って裏切るのかって、人間に対して絶望したんだ」
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