私のお世話がかり
 ◯回想ー大学 
 エレベーターの中で、最上は奥側にいる双葉にじりじり詰め寄る。
 双葉「えっ!?」
 最上「お世話されてもいいの……?」
 そのままエレベーター内の奥の壁にトンッと手をついた。
 双葉「いや、あの……」
 まるで壁ドンみたいで、双葉は口ごもる。
 最上はじっと見つめ、やがて深く息を吐いた。
 最上「俺は、双葉さんなら俺がいなくても何でもできると思うんだ。逆に、俺がいることで可能性を狭めてしまうんじゃないかって危惧してる」
 双葉「先輩……」
 ダメ人間のように感じていた双葉の心が、少し軽くなった。
 最上「それでもいい?」
 心澄んだ瞳に射抜かれて、臓が大きく脈を打つ。
 いいのか悪いのかなんて、双葉の知る由もなかった。この手を取らなければもっと別の人との出会いが待っているのかも知れない。だけど、その人は目の前の人よりも優れている保証なんてない。
 双葉は唇をきゅっと結ぶ。
 今一緒にいてくれる人たちとの縁を大事にしたいと思った。
  
 双葉「お、お願いします!」
 間近に迫る最上の顔を上目遣いで見上げた。
 最上「!」
 双葉「先輩さえいいなら、お世話してください!」
 最上「……」
 双葉 (何を言ってるんだろう、私)
 双葉は恥ずかさのあまり、即座に目をそらした。
 双葉 (でも……今度こそ逃げたくない。憧れてたキャンパスライフだもん。声をかけてくれる人たちを離したくない)
 視線の先には、エレベーターの無機質な壁があるだけ。この空間に、ひとりで乗るか、それとも友人と乗るかは自分次第である。
 双葉は視線を戻し、最上と目を合わせた。
 双葉「先輩と一緒に、大学生っぽいことたくさん経験したいです!」
 最上「……っ!」
 双葉は今の素直な気持ちを打ち明けーーそうして、お世話係として任命してしまったのである。
 ー回想終わりー

 ◯サークル部室 ミーティング中 夜
 みんなで話し合いながら大きなテーブルを囲んでいる。
 双葉 (まるで告白じゃない!? )
 土日を挟み、数日経った双葉は羞恥心に押しつぶされそうになっていた。
 机に突っ伏して、とにかく時間が過ぎるのを待つ。

 最上はホワイトボードを見る。
 ホワイトボードには『A案 正一 B案 正T』の文字。
 ※議題ーーA誌“ちょ、待てよ”、B誌“おまえそれ次やったらマジでコレだからな” 

 最上「部屋割もこのメンバーでいいんじゃないか?」
 しばらく考えていた最上が、司会の宮内に声をかけた。
 宮内「そうだな。どうせオールで描くんだからな」
 双葉「……カラオケでも行くんですか?」
 部長「あぁ、学祭の部誌はね、みんなでオールで描きあうことになってるの」
 湯本「双葉サンも行くよー強化合宿」
 湯本は双葉の肩を組んだ。
 “オール”“合宿”という言葉に、双葉の胸は弾む。
 双葉「いいですね……! 楽しそうです!」
 顔を上げると、最上も楽しそうな声色で言った。
 最上「お互いにポーズしあって構図やデッサンも学べて一石二鳥なんだよ」

 双葉 (ん……? )
 双葉は眉間にしわを寄せた。ここがオタクの巣窟漫画研究部であることを失念してしまっていたのだ。
 双葉 (お互いに、ポーズし合う……? )
 双葉は自由の女神像や、ダビデ像、小便小僧を想像して震え上がった。
 双葉 (無理ー!)
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