髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
何をやっているのかしら、わたくしったら。
外に出る気になんてなれるわけないのに。
ましてや、北部には嫌な思い出があるっていうのに。
「ごめんなさい……わたくし……」
「ねえ、ルシアナ。君の時間が空いてある時に、ダンスの練習をしに来ないかい?」
「え……? ケイリー様がお相手して下さるのですか?」
「だってさ、あのダンスをウィンストンに見られてご覧よ。またコテンパンに言われて、君が悔しい思いをするのは目に見えてる。それに、エスコートしてくれる男性が不憫じゃないか」
「むぅ。ケイリー様こそ相変わらずいい性格してらっしゃいますわ」
子供のように頬を膨らませるルシアナに、ケイリーはケラケラと笑い、そしてボソリと呟いた。
「……ルシアナだけ。ルシアナだからだよ」
わたくしに、だけ……?
別に愛の告白をされた訳でもないのに、急に心拍数が上がってしまった。
それは一体どういう意味なのか。
深く考えるまでもない。
気安いお友達ってことよね。
ドクドクと頭に激しく血液を送り込まれて、うまく思考が回らない。
どうせ言うなら、いつもみたいに笑って言って欲しい。そんな照れ臭そうにされると勘違いしちゃうじゃない。
カーン、カーンっと正午を報せる鐘の音が、王宮中に響き渡った。
「あら、もうこんな時間?!」
「もう行かないと。じゃあね、ルシアナ。待ってる」
「え、ええ……。それではまた」
まだ早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように、ルシアナは小さく息をついて目を伏せた。
あれ……?
今思ったけど、ケイリー様はいつからここにいたのかしら。
わたくしがここで一人でダンスの練習していたのを、ずっと見ていたってこと??
ううぅぅぅ! やっぱり嫌なお方だわ!!
悪態をつく脳内の声とは裏腹に、ルシアナの口元は弧を描いていた。