髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
客室から出たルシアナは、ベアトリスの部屋へと戻った。
ベアトリスもまた、ダンスのレッスンが終わって部屋へと戻ってきたばかりで、身なりを整えていた。
「ルシアナ、御家族が到着なさったんですって?」
「はい。お陰様で、無事に王宮まで来れたようです。母がベアトリス様に、わたくしのエスコート役を探して下さった御礼を言いたいそうなのですが」
「まあ、気にしなくていいのに。ルシアナを急に呼び付けてしまったのは私の方なんだから。でも御家族には舞踏会の前に挨拶しておきたいわ。都合をつけましょう」
「ありがとうございます」
ルシアナがお辞儀をしていた頭を上げると、ベアトリスが「ところで……」と何やらモジモジと言いにくそうに切り出した。
「ケイリーから何か言われていないかしら?」
「ケイリー様から、ですか?」
ケイリーがルシアナにダンスの練習に付き合ってくれていることは、もちろんベアトリスも知っている。
最初に報告した時なんて物凄い喜びようで、侍女の仕事なんてしなくていいから、ケイリーの所へ行ってきなさいと言われたくらいだ。
流石にそれはまずいからと断ったが、ベアトリスがケイリーを相当に心配してきたであろうことは感じ取れた。
――心を閉ざしてしまったケイリーを救いたいの。でも、もうどうしたらいいのか分からなくて……。
そう、ベアトリスは吐露していた。
「ほら、その……デビュタントボールの当日についてとか……」
「??」
ごにょごにょと歯切れの悪い。
ケイリーもそうだ。ダンスの練習に行く度に何かを言おうとするのだけど、結局いつも「やっぱり何でもない」とか言ってはぐらかされてしまう。
「えぇと、練習だけなのかなー……なんて思ったりして」
「ベアトリス様、申し訳ありませんがどういう意味なのか、わたくしには分かりかねます。ケイリー様もよく何か言いたげにするのですが、当日に何かあるのですか?」
小さな子供みたいに両手の人差し指をツンツンさせていたベアトリスが、「やっぱりケイリーも」と言って目を輝かせた。