髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

25. ルシアナ、言質を取る

 ……今日もお誘いして下さらないのね。

 舞踏会が明日に迫った日の午後、ルシアナは最後の練習にケイリーの部屋へと来ている。

「2週間前に比べると、随分上達したね」
「ケイリー様のお陰ですわ。これで明日、お相手の方の足を踏まずに済みそうです」

 ふふっ、と笑ってケイリーの方を見たが、前髪の奥にある瞳は床ばかりに向けられて、ルシアナの方を向いてはくれなかった。

 ちょっとでもわたくしのことが好きなら、嫉妬くらいしてくれるかと思ったのに。

 やはりルシアナの思い違いのようだ。

「ケイリー様は……」
「うん?」

 どうしたいのですか?

 そんな質問は、気持ちの沈んでいる人に投げかけるべきじゃない。
 きっとルシアナがここに来る以前に、多くの人に言われたはずだ。

 傷跡なんか気にするな。
 いつまでそうやって引きこもっているつもりだ。
 結局、どうなりたいんだよ? と。

 ケイリー自身はきっと傷跡があっても堂々と人前に立ち、胸を張って「これが自分だ。気にしてない」って言いたいんだと思う。
 実際、初めのうちはそういうスタンスでいたのだから。
 でもそれは続かなかった。 
 よく『自分が思ってるより、他人は自分を見ていない』なんて言うけれど、果たしてそうだろうか?
 見てないって言うのなら、なぜケイリーはあれ程までに、人の視線を気にして怯えるようになったのだろう。
 
 自意識過剰だから?
 そんなことは無い。
 誰だって簡単に、陥りうる心境だと思う。

 どう声掛けしたらいいのか分からなくなったルシアナは、静かに首を振った。
 
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