髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
座ったケイリーにフワッとケープをかけて、後ろで紐を結んだ。霧吹きで湿らせた髪をクリップで止めてブロッキングし、クシで髪をすくいとる。
「ケイリー様は前世を信じますか?」
「え?」
ルシアナのまるでオカルト信者のような問いかけに、ケイリーは益々困惑を極めたようだ。ポカンと口を開けて、ルシアナの方を見てきた。
「わたくし前世では別の国の、ごく普通の女の子でした。母が倹約家で、大きくなるまでは母がわたくしの髪を切ってくれていたのです」
チョキチョキと鋏を動かしながら、ルシアナは前世の自分を思い出していた。
ルシアナが話した通り、貧乏という訳ではなかったけれど母が倹約家で、中学までは母が自宅で髪の毛を切ってくれていた。
オシャレにさほど興味がある訳でもなかったので、それを特段不満にも思わなかったし、それでいいと思っていた。
黒髪ストレートを胸元まで伸ばして、前髪はパッツン。
日本人形のような髪型だったと思う。
高校に上がる前の春、母が「そろそろ美容室で切ってもらわないとね」と言って、駅近くの美容室に連れて行かれた。
いつも母親任せでどうやってオーダーしたらいいかも分からなかったので、「全部お任せします」とお願いした。
後で思えば、美容師泣かせの無茶ぶりオーダーだったことに気付いたが、美容師のお姉さんは「じゃあ飛び切り可愛くしちゃうよ〜」と言って切ってくれた。
鏡越しに見る美容師の手さばきに目取れているうちに、あっという間にカットが終わった。
終わったと声を掛けられ、改めて自分を見た時の感動を、今でも忘れない。
髪の長さはさほど変わらないし、カラーリングをした訳でもないのに、自分がずっと垢抜けて、ずっと可愛く見える。
――魔法だ。
在り来りな言葉だけど、本当にそう思った。
初めて美容室へ行った日以来、鏡を見るのが楽しみになった。オシャレが好きになった。
今日はどんなヘアアレンジをしよう?
どんな服を合わせよう?
その代わり、前髪がちょっと決まらないだけで一日やる気が出なくなる。そんな経験もして……。
髪型ひとつでこんなにも毎日が楽しくなったり、逆にやる気をなくしたりするんだって知ったから、美容師になろうと思った。
――私も、魔法をかけたい。
「初めてプロに切ってもらった時には、感動しました。自分で言うのもなんですが、見違えるように可愛くなったって思いましたの。それこそ髪を切ってくれた方が、魔法使いかと思ったくらいですわ。それから前世のわたくしは、プロを目指して理容師になりました。自分も誰かの魔法使いになりたいと……」
ケイリーのもっさりとしていた髪の毛は、ルシアナの手によって、はらりはらりと落ちていく。
ルシアナはケイリーのこの生々しい傷跡が残る顔を、醜いとは思わない。
そんなこと気にせず顔を上げたらいいと言う、他の人の意見に激しく同意する。
でもケイリーの心は、それでは休まらない。
落ち着けない。
「ケイリー様に魔法をかけてあげます。きっと自分を好きになれますわ」