髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

 チラリと王族席へと目を向けると、ベアトリスと目が合った。目を見開き口元に手をあてる彼女に微笑んでみせる。
 どうやらベアトリスは、ルシアナの隣りに居るのが自分の弟だと気付いたようだ。

 デビュタント全員が並び終え王が祝辞を述べると、演奏が始まった。ルシアナの手はさっきまでのケイリーのように汗ばんで冷たく、顔も強ばっている。

 ひとりで踊ってやる気だった、なんて言っていたのに。
 なんだかルシアナが小さくか弱い生き物に見える。
 威勢のいい態度を取るのは案外、自分の弱い部分を隠したいからなのかもしれない。
 
 クスリと笑ったケイリーは、ルシアナを引き寄せたタイミングで耳打ちした。

「大丈夫。ただ演奏に耳を傾けて、僕のことだけ見ていればいいから」
「そ……そんなことを仰るなんて、ケイリー様は随分と余裕があるようですね」
「君が僕に、魔法をかけてくれたからね」

 真っ赤になって俯いてしまったルシアナに、ケイリーは背筋を伸ばすように促す。

「ほら、顔を上げてよ。姿勢が崩れて折角のダンスが台無し」
「もうっ……」

 視線をさ迷わせるルシアナが可愛くて仕方がない。ここが公の場で良かった。理性を保っていられる。

 曲が終わって礼をすると、ルシアナの両親が待っていた。デビュタントボールの真の目的――君主へ挨拶しに行くためだろう。

「ルシアナや、そちらの方が王宮騎士団の……?」
「いやですわ、お父様。ケイリー殿下です」
「あーぁ、やはりそうでしたか!」

「絶対分かんなかったくせに」とルシアナが、胡散臭そうな顔をしながら小声で呟いていた。

「まさかとは思いますが、ケイリー様も娘の餌食になったのでしょうか」

 オリビア夫人がケイリーの頭髪を見て、表情を曇らせた。
 
「餌食とはまた随分な物言いですね。似合いませんか?」
「いえ、とても良くお似合いです」

 乙女のように頬を染めて恥じらう妻を見た夫が、今度は顔を曇らせた。

「ごほんっ……。それではルシアナ、陛下のところへ挨拶に行こうか」
「はい、お父様」
< 119 / 137 >

この作品をシェア

pagetop