髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「あ……な、なにを仰いますやら。そ、そうだ! ベアトリス様の婚約発表が上手くいって良かったですわね! 婚約者の方も優しそうで素敵な方でしたし、ベアトリス様にゾッコンって感じで……。それからケイリー様もお元気になりましたし、これで安心して公爵領へ帰れます」
ルシアナの侍女生活は、ベアトリス王女の婚約発表と共に終わる。そういう約束でここへやってきた。両親と一緒に帰るつもりでいるので、ケイリーとこうして話を出来るのもあと少しだ。
「今度避暑で北部を訪れる際には、是非ルミナリアにもお立ち寄りくださいね。生まれ変わりつつあるルミナリアをケイリー様にも見て頂きたいですから」
外へ出られるようになったのなら、アルベリア伯爵のところへ再び行くようになるかもしれない。ケイリーにまた会いたいからと素直に言えないルシアナは、ルミナリアを出しにしてしまった。
手をモジモジとさせて視線を彷徨わせるルシアナの頬に、ケイリーの手が伸びてきた。その手は頬から頭の後ろへと滑り、ルシアナの瞳にはケイリーしか映らなくなった。
「僕や姉さんが、君をこのまま返すと思ってるの?」
「どういう意味で……」
近づいてきたケイリーの顔は、そのままルシアナの肩にのせられた。抱きしめられるのはもう三度目なのに、鼓動はますます激しくなる。
「少なくとも僕は、大人しく返す気なんてない」
「大人しくって、それは……」
「嫌なら僕を跳ね除けて。そうしたら潔く会場へ戻るから」
急に苛立ったり、苦しくなったり、嬉しくなったり……全部ケイリー様を好きになっていたからだったのね。
この腕の中にずっと居たいと思うのが、その証拠だ。
ぎゅうっと抱き締め返したルシアナは、不敵に微笑んでみせる。
「目を閉じていても、わたくしを選んでくれますわよね?」
「はは、それ今言う?」
「わたくしがしつこいって、ご存知でしょう?」
わざとふくれっ面でケイリーを見上げれば、月明かりは近づいてきたケイリーの顔で見えなくなった。開かれた窓から聞こえてきていた騒がしい声も、優雅な音色も、何もかもが遠くに感じる。
「もちろん、目を開けていようが閉じていようが関係ない。そもそも僕にはもう、ルシアナ以外の女性は目に入らないから」
重ねなれた唇は、次の瞬間に聞こえてきた怒鳴り声であっという間に引き離された。
「いっ……今何か聞こえてきましたよね?」
「うん、女性の声だったけど。喧嘩している……のかな」
どことなく知っている人の声だった様な気がしたルシアナは、声のした方へ顔を向けると、テラスへと続く大窓の近くにベロニカとウィンストンとが、向かい合っているのが見えた。
「今の声、やっぱりお姉様だったのね」
互いに鋭い視線を投げつけあっている二人は殺気立ち、まさに一触即発の状態だ。
「ウィンストンったら、お姉様に何かしたらタダじゃおかないんだから!」
二人のただならぬ気配を察したケイリーも、ベロニカの側へと走り寄っていくルシアナの跡を付いてきた。
ベロニカの後ろには騒ぎを聞き付けたルシアナの両親が、一足早く到着していた。