髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「実際そうだろう? ルミナリアにあるのは見渡す限りのりんご畑だけ。領民だって可哀想じゃないか。無能な公爵の領地に生まれてしまったおかげで、一生ひもじく、惨めに暮らさなきゃならないんだからね。あぁ君なんて、公爵家の娘だっていうのにこんなに髪の毛を短く切ってしまって。髪の手入れが出来なくなるほど、家計が苦しくなっているとはね」
ルシアナのプラチナブロンドの髪に手を伸ばしてきたウィンストンの手を、パシりと払い除けた。
ゲスな上にお洒落というものが分からない輩に、わたくしの大事な髪を触られるなんて虫唾が走るわ!
「お姉様、こんな方と結婚なんてしたらいけませんわ。夜の相手はほかの女にだなんて言う男と一緒になったらろくな結婚生活が待っていませんもの」
「おいおい、随分と出しゃばりな妹だ。だがね、ベロニカは俺と結婚するしかないさ。なにせスタインフェルド家と領民の生活がかかっているんだからね。選択権はむしろバルドー家にあるんだよ、お嬢ちゃん」
「そんな事ありませんわ! 貴方なんかじゃなくても、貴族の男子なんて他にもおりますもの」
威勢よく言い放ったルシアナの言葉に、ウィンストンは「ぷっ」と笑って息を吹き出した。
「何がおかしいの?!」
「いやぁ、まあね。君はまだ子どもだから分からなくても仕方がない。貧乏公爵のところへ息子を婿養子へやりたいなどと思う家がどれほどあるのかって話しさ。絶世の美女だったなら話しは別だが、ベロニカ嬢はあー、こう言ってはなんだが世の男を魅了するほどの器量良しでもない。とくにその頭だ。髪は女の命って言うが、うん。本当にそう思うよ」
シガールームからこちらの様子を伺っている他の男たちが、笑いを堪えているのが分かった。笑い声を誤魔化すような咳払いや、わざとらしく息を吐き出す音が聞こえてきた。
「そういうわけでだな? 余程資金が潤沢でなければ、ここへ婿入りするなんて言うのは貧乏くじってもんだろう? そのくじを僕は引こうっていうのさ。こんなにありがたい話はない」
ギリギリと奥歯を噛み締めることしか出来ず、返す言葉が見つからない。
悔しい! 悔しい!! 悔しい!!!
「……もういいわ、ルシアナ。行きましょう」
「お姉様……」
「私は今夜はこれで失礼します。皆様は引き続きパーティーをお楽しみ下さいませ」
ベロニカは目と鼻を真っ赤にしたまま力なく微笑むと、軽く一礼してルシアナの手を取り、そのまま会場を後にした。