髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「まぁ、ルシアナ! あなたったら目覚めたばかりだと言うのにウロウロして。具合の方はもう良いの?」
「お母様、ご心配をお掛けしましたわ。もうすっかり熱は引いたみたいでこの通り!」
片足立ちになり、くるんっとその場でターン。は、決まらなかった。思いの外体力が失われていたようで、バランスを崩したルシアナを母が受け止めてくれた。
「もう、ルシアナったら。モニカ、この子がベッドで大人しくしているよう見張っておいて頂戴」
「うふふ。はい、奥様」
湯浴みは体力が十分に回復してからと言われ、ルシアナがようやく湯浴みを出来たのは、それから2日後のこと。
髪の毛を櫛で出来るだけ解きほぐした後、モニカに手伝ってもらいながら石鹸で髪を洗っていく。
「はあ゛ぁ゛〜、気持ちいい〜」
「あらあら、お嬢様。おじさんみたいな声を出して。はしたないですよ」
「失礼しましたわ」
クスクスと朗らかに笑うモニカが、今度は水の張った木桶を近くに持ってきた。
「さあ次はこちらの桶に髪の毛を浸けてくださいまし」
水からツンと鼻を突く香りが漂ってきて、ルシアナは思わず顔をしかめた。
「この酸っぱい香り、何とかならないのかしら」
「いつもの事ではございませんか。良く濯げば匂いはほとんど残りませんよ」
ほらほら、とモニカに促されて髪の毛を温い水に浸していく。
この水から酸っぱい香りがするのはお酢が入っているから。石鹸でアルカリ性に傾いた髪を酸性の酢で中和するのだ。この工程を行わないと石鹸カスが髪の毛に残って髪の毛がギシギシ・ベトベトになってしまう。
「ヘアコンディショナー欲しいなぁ」
高熱にうなされ目覚めてからのこの2日間、ルシアナは夢の中の出来事はもしかして、自分の前世だったのではないかと言う結論に至った。
だって目が覚めたら、この世界では見た事も聞いたこともないような知識や道具について知っているなんておかしすぎる。
人間の魂は肉体が滅んでも残って、また生まれ変わるのだと聞いたことがある。
もしそれが本当ならきっと、ルシアナの前世はニッポンという国に住む一般女性だった。
一般女性って言ったって、その前世かもしれない世界ではこの世界のように、明確な身分差などというものは存在しなかったのだけれど。
今世の世界には明確な身分差というものがあり、ルシアナの祖父は貴族の中でも最高位である『公爵』の爵位を持ち、父はその跡取り。
プラチナブロンドのストレートヘアに、青リンゴのような翡翠色の瞳をもつこの容姿を前世の自分が表現するのならば、ファンタジーな世界のお嬢様だ。