髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
 物珍しそうに辺りを見回しているケイリーを尻目に、ルシアナは目的地へとずんずん進んで行く。

「どこへ向かうの?」
「魔道具を作っている工房ですわ」
「へぇ。魔道具なら商人から買えばいいし、リクエストがあるなら商人に言えばいいんじゃない?」
「これまでにない、全く新しい魔道具を作って欲しいんですの。直接話しをしないと。……あっ! ここだわ!」

 ルミナリア地方の中でも最も大きく、最も優れた職人達が集まる魔道具工房へとやって来た。
 古びたドアを開けると、中の大きな空間には壁一面にズラリと工具や素材などが並び、あちこちに置かれたテーブルでは職人たちが作業をしている。

「ごめんください」
「こらこらお嬢ちゃん、ここは工房だよ。入ってきちゃダメじゃないか」
「わたくしここに用があって参りましたの。ルミナリア公爵の孫娘、ルシアナ・スタインフェルドと申します」

 工房から追い出そうとするおじさんに自己紹介をしてちょこんと膝を折ると、一瞬胡散臭そうな顔をしたが、後ろに控えている騎士達を見て姿勢を正した。

「りょっ、領主様のお孫様でらっしゃいましたか」
「工房長はいるかしら」
「俺ですが」
「是非作って欲しい魔道具があるの。こんな感じの魔道具、作れるかしら」

 ルシアナが思い描くドライヤーの形や機能などを書いた紙を工房長へと渡すと、首を傾げている。

「温風や冷風を吹き出す道具……。これは一体、なんの役に立つのですか?」
「髪の毛を乾かす為に使うのよ」
「髪の毛を……? あー、そのですね、お嬢様。髪の毛を乾かす必要ってあるんですか?」

 自信満々なルシアナに対して、なんじゃこりゃ、とでも言いたげな工房長。さらにケイリーも横から入ってきて工房長の意見に賛同している。

「僕もそう思う。魔石を使ってまで髪の毛を乾かして何になるの?」
「何になるですって?」

 思ってもみなかった周りの反応に、ルシアナの疑問が一つ解けた。
 なんでこの世界に、ドライヤーという便利な道具が存在しなかったのかを。
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