髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
7. ルシアナ、提案してみる
夕食会の後、何日か雨が降ってケイリーをりんご畑に案内したのは、滞在5日目のこと。
汚れてもいいように簡素な服を着て、祖父のいるりんご畑へとケイリーを伴いやって来た。
本当なら無視したいくらいの気持ちだが、そこはお互い身分のある身。表面上は仲がいいように取り繕って接している。
「おじい様、ケイリー様を連れてきましたわ」
りんご畑の手入れをしている祖父の足元では、ヤギがボサボサに生えた雑草をはみながら、尻から糞をポロポロと落としている。それを気にする風でもなく、ルシアナの呼び掛けに応えて手を振り返してきた。
「ケイリー王子、お待ちしておりました」
ニカッと笑った顔には多くの皺が入っているが、生き生きとしていて生命力に溢れている。どの家に生まれるかなんて選べないので仕方がないが、祖父は公爵家などという立派な家柄より、農家にでも生まれてきた方が良かったよかもしれない。くたびれて死にそうだった祖父は、少なくともあと10年は死にそうにない。
「今は何をなさっていたのですか」
「剪定ですよ。夏には枝葉がどんどん伸びてきて生い茂ってしまうので、こうして切り戻しをしてやるんです」
「そうでしたか。それでそちらの方達は?」
訊ねたケイリーの目線の先には、祖父の後ろに何人か頭を下げて立っている男たちがいる。ルシアナは時々祖父の所へ遊びに行くので、この人達とは顔見知りだ。
「ああ、こちらはこの農園で雇っている農夫で、そしてこちらは儂の師匠ですよ」
祖父と同い年くらいのおじさんを紹介すると、照れて「師匠だなんてそんな」と首の後ろをかいている。
「師匠?」
「ええ。十数年前に儂が農業を始めた時から農作について教えて貰っていてね」
「そうですか。どうぞ皆さん頭を上げて楽にして下さい。……けれど公爵、りんごなんて木を植えればなるものではないのですか?」
ケイリーは後ろで頭を下げ続けている男たちに声をかけると、近くになっているまだ青く小さなりんごをしげしげと眺めながら訊ねた。
「儂もそう思っていたのですが、いやぁ、とんでもない。病気やら虫やらで最初は酷い目にあいましたよ。それで辺りでりんごを育てている農民に教えをこいて、ここまで農園を続けてこれたというわけです」
「おじい様の師匠は領内に沢山いるのですわ。ね?」
「ああ、みんな親切だからね。良い領民に恵まれたものだよ」
「何をおっしゃいますか。良い領主様に恵まれて感謝しているのは我々民の方ですよ」
和気あいあいと話す民と祖父とをみて、ケイリーは目を細めた。
汚れてもいいように簡素な服を着て、祖父のいるりんご畑へとケイリーを伴いやって来た。
本当なら無視したいくらいの気持ちだが、そこはお互い身分のある身。表面上は仲がいいように取り繕って接している。
「おじい様、ケイリー様を連れてきましたわ」
りんご畑の手入れをしている祖父の足元では、ヤギがボサボサに生えた雑草をはみながら、尻から糞をポロポロと落としている。それを気にする風でもなく、ルシアナの呼び掛けに応えて手を振り返してきた。
「ケイリー王子、お待ちしておりました」
ニカッと笑った顔には多くの皺が入っているが、生き生きとしていて生命力に溢れている。どの家に生まれるかなんて選べないので仕方がないが、祖父は公爵家などという立派な家柄より、農家にでも生まれてきた方が良かったよかもしれない。くたびれて死にそうだった祖父は、少なくともあと10年は死にそうにない。
「今は何をなさっていたのですか」
「剪定ですよ。夏には枝葉がどんどん伸びてきて生い茂ってしまうので、こうして切り戻しをしてやるんです」
「そうでしたか。それでそちらの方達は?」
訊ねたケイリーの目線の先には、祖父の後ろに何人か頭を下げて立っている男たちがいる。ルシアナは時々祖父の所へ遊びに行くので、この人達とは顔見知りだ。
「ああ、こちらはこの農園で雇っている農夫で、そしてこちらは儂の師匠ですよ」
祖父と同い年くらいのおじさんを紹介すると、照れて「師匠だなんてそんな」と首の後ろをかいている。
「師匠?」
「ええ。十数年前に儂が農業を始めた時から農作について教えて貰っていてね」
「そうですか。どうぞ皆さん頭を上げて楽にして下さい。……けれど公爵、りんごなんて木を植えればなるものではないのですか?」
ケイリーは後ろで頭を下げ続けている男たちに声をかけると、近くになっているまだ青く小さなりんごをしげしげと眺めながら訊ねた。
「儂もそう思っていたのですが、いやぁ、とんでもない。病気やら虫やらで最初は酷い目にあいましたよ。それで辺りでりんごを育てている農民に教えをこいて、ここまで農園を続けてこれたというわけです」
「おじい様の師匠は領内に沢山いるのですわ。ね?」
「ああ、みんな親切だからね。良い領民に恵まれたものだよ」
「何をおっしゃいますか。良い領主様に恵まれて感謝しているのは我々民の方ですよ」
和気あいあいと話す民と祖父とをみて、ケイリーは目を細めた。