髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
こうなると、ぶどうに対してジェラシーを感じてきた。ぶどう酒もバルサミコ酢も、国内だけと言わず近隣諸国でも覇権を握っている。りんごだって古くからあるフルーツなのに、何故こうも需要に差が出るのか。
「僕も微力ながら、りんご酢の美味しさは王宮に戻って広めるよ」
不貞腐れるルシアナに、ケイリーが元気付けるようにして頭をポンポンと撫でてきた。
子供扱いされた感じでイラッとしたのが三分の一、兄がいたらこんな感じなのかなと心がくすぐったくなる感じが三分の一で、あと残りの三分の一は心臓がきゅっとなる複雑な心境になった。
「ところで公爵、ヤギの他にも蜂を飼っておられるのですか?」
ヤギの糞がそこらじゅうにポロポロと落っこちているのも気にせず、ケイリーは少し先にある木箱へと近づいていく。
へぇ、温室育ちのお坊ちゃんかと思っていたのに、結構神経が図太いのね。
王都からやって来た貴人なら当然嫌がるだろうと思っていただけに、少しだけケイリーのことを見直した。でも、あの「馬鹿」発言だけは許せないけど。
「果樹園では養蜂も同時に行うことが多いのですよ。なぜだか分かりますかな?」
「うーん……もしかして、受粉させる為かな? 蜂は蜜を集める時に、花の受粉を助けるのだと習ったよ」
「ご名答です。受粉を蜜蜂に手伝ってもらって、たくさんの実を付けてもらおうという訳です。はちみつも重要な収入源ですが、最近は南の国からサトウキビとかいう植物から取れる砂糖が入ってきているせいで、りんご同様、価格が低くならないかとヒヤヒヤしておりますよ」
この辺りの国々では、砂糖といえばてん菜から作る砂糖が一般的だったが、近年では南の国から次々と砂糖が輸入されてきている。甘味が比較的簡単に手に入るようになれば、はちみつも油断していると、あっという間に波に飲まれてしまうかもしれない。
あっちもこっちも南の国からの輸入品に押され気味で、頭が痛くなってくる。
当然この国からも色々と輸出しているのだろうけれど、輸出の恩恵をルミナリア地方は受けていないのが現状だ。
その後もしばらくケイリーをりんご畑の中で説明して過ごすと、本邸へ帰る頃には夕方近くになってしまった。