髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「ルシアナ嬢は街へ出掛けていたのかい?」
「ええ。ドライヤーの改善点を伝えに行っていましたの……って、ドライヤーのことなんて、ケイリー様はご興味無い話でしたわね」
先日のことを思い出して、ルシアナはふんっと鼻を鳴らした。
「君、執念深いって言われたことない?」
「ケイリー様こそ万年笑顔野郎って言われませんこと?」
「万年笑顔野郎? ぷはっ、何それ」
「嫌味をおっしゃる時ですら無駄にキラキラして笑ってらっしゃいますもの。ピッタリのあだ名ですわ」
「ちょっと、ルシアナ!申し訳ございません。虫の居所が悪いみたいで」
ルシアナの無礼なもの言いに、ベロニカが慌てて謝っている。
ケラケラと笑うケイリーは、ルシアナに最上級の笑みを浮かべて言い放った。
「君みたいに感情をコントロール出来ない人は、いい縁談には恵まれないと思うよ。特に上流社会ではね」
いよいよ身体中の血液が頭に登ってきた。
「よ、け、い、な、お、せ、わ、ですぅーっ!!」
自分の欠点など、わざわざ人から指摘されなくたってルシアナ自信が一番よく分かっている。
ムッキーと顔を真っ赤にして怒るルシアナの肩を、誰かに後ろから掴まれた。
「これはこれは、第一王子殿下。私の婚約者の妹が、無礼を働いているようで」
横に並んで現れた人を見上げると、ウィンストン・バルドーがいた。サッと脱いだ帽子を胸元に当てお辞儀をすると、ウィンストンの頭頂部が一瞬だけ見えた。オイルがたっぷりと塗られたオールバックスタイルの髪の毛は、お辞儀をしても微動だにしない。
あら……? 髪の毛が……。
ルシアナがウィンストンの頭を見続けていると、視線に気がついたウィンストンにキッと睨まれた。
こ、こわっっ……。
射ような視線に背筋がぞくりとした。恐怖で目を泳がせていると、ベロニカがケイリーに紹介をしはじめた。
「ケイリー様、こちらは私と婚約予定の……」
「わたくし、ホルレグワス男爵家の三男で、ベロニカの婚約者ウィンストン・バルドーでございます。どうぞお見知り置きを」
こいつー! 婚約者じゃなくて婚約予定でしょうが!!
ルシアナはイライラしながら、ケイリーがウィンストンに差し出された手を握り返しているのを眺めた。
「ホルレグワス男爵の話しなら、何度も耳にしたことがあるよ。よく新聞も賑わせているしね」
「殿下はまだ幼いのに新聞をお読みになっておられるのですか。感心ですなぁ。私が殿下ほどの年の頃はやんちゃばかりをして、活字なんぞ読む気にもなれませんでしたよ」
「ふぅん。僕は先月で14になった。国で何が起こっているのかくらい把握していて当然だよ」
あら、珍しい。
ケイリーはいつものように眩しいくらいの笑みを浮かべているけれど、一瞬だけ鋭い視線をしたのをルシアナは見逃さなかった。