髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

 ルシアナはカツラ事業に対しては悪い案だとは思わない。なりたい自分に近づくためにカツラを被ったっていいと思うし、そういう流行りがあったっていいと思う。

 けれど、他者にそれを押し付けるのは違うでしょう?

 声を荒らげて反論したくなったルシアナよりも先に、ケイリーは冷ややかな声で言った。

「僕にはベロニカ嬢が地毛を隠す必要など、全くないように見えるけどね」
「ああそれは、殿下にとっては他人事だからですよ。自分の横に並ぶ花はやはり美しくなくては。そうだ! 事業と言えばもう一つ、これからやろうと考えている構想がありましてね。殿下には特別に、先にお話ししておきましょう」

 カツラ話でうんざりした様子のケイリーは、2枚目のクッキーを手に取り、目も合わさずに「何かな」と相槌をうった。

「私がスタインフェルド家に入ったら、このルミナリア地方にカジノを作ろうかと思っているのですよ」
「カジノですって!?」

 想定外の話しに、ルシアナは思わず立ち上がってしまった。

 カジノなんて話しは、1ミリも、1デシベルも聞いたことがないわ!!!

「どうやら、家族となる者たちすら知らない話しみたいだね」
「ええ、お慕いしている殿下にだからこそ、特別ですよ、特別。こんな大した金にもならないりんご畑なんて切り倒して、巨大なカジノリゾートを作るのです。夏は涼しさを活かして避暑に、冬はウィンタースポーツを楽しむのも良いでしょう。南に住む奴らは雪を珍しがりますからねぇ」

 『特別』を強調するあたり、媚びているのが見え見えで気持ちが悪い。

「カジノだなんて、お爺様がお許しになるはずがありませんわ」

 祖父も、そして父も、このルミナリア地方のりんご畑を愛している。
 それを切り倒してカジノリゾートにするだなんて、絶対に反対するに決まっている。

「それはどうな。ルミナリア地方がこうなったのはルミナリア公爵の責任だろう? このままいけばいずれ破綻する。己の能力の無さを自覚した公爵も君の父親も、だから私を跡取りにとベロニカとの婚約を了承した。違うかい? ルシアナ嬢」

 うううぅっ。

 全くもってその通りすぎて、ぐうの音も出ない。

 ウィンストンの話しにクッキーを食べる手を止めて耳を傾けていたケイリーが、顎に手をやり考え込んでいる。
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