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11. ケイリー、ルシアナについて考える

 三日後、ケイリーは馬車に乗り込むと公爵邸を後にした。
 最後に見送りに来た公爵邸の者たちは心なしか元気がないようだったが、ルシアナだけが目に燃えたぎるような熱を帯びて、しゃんと背筋を伸ばしていた。

「残念だな……」

 遠ざかる公爵邸を見ながら、ケイリーは一人ポツリと呟いた。

 急遽予定を変更して来ることになったルミナリア公爵領。
 今年で14になったケイリーは、そろそろ将来の伴侶選びの準備に取り掛かる時期だ。
 このあたりの国では男性は一般的に、十代の後半で婚約をし、二十代半ばまでに結婚することが多い。
 本格的な婚約者選びは社交デビューしてからだが、その前に色んな人に会い、誰がどんな人柄をしているのか知っておいた方がいいと、14の誕生日に父から助言された。
 特に王の子となると妃選びは難航するからね、と。

 多少なりとも妃選びに自分の意見を反映させる気のある両親にケイリーは感謝しつつ、助言通り同じ年頃の女性を注意深く見るようにしている。

 ルシアナ・スタインフェルド。

 年齢は二つ違いで、家柄も血筋も問題ない。
 結婚相手は家紋に力があり過ぎても、無さすぎても宜しくない。
 もともと力のある家との結び付きが強くなれば王家の力はより強くなるが、相手の家にも力をつけてしまう。強大な力を持たせ過ぎるのは危険なため、バランスが大事。
 
 そういう意味で言うと、ルミナリア公爵は力が弱すぎるかもしれないが、今後の如何によっては状況も変わるだろう。

 外側だけのプロフィールなら、ルシアナは間違いなく候補に入る。

 両親もそして祖父の公爵も、媚びたり或いは子供扱いなどせず、ケイリーを一人の男として接してくれるところに随分と好感を持てた。
 ルシアナ自身も自分の考えもしっかりと持ち、特にあの行動力にはケイリーも舌を巻くほどだ。

 けれど期待は、すぐに打ち破られた。

 初日について行った街で、ケイリーはルシアナに失望した。
 彼女は外見に並々ならぬこだわりをみせ、見た目は大事だと言い放った。

 ルッキズムなど馬鹿げている。

 ケイリー自身は、伴侶となる人の容姿など大した問題ではないと思っている。
 凡庸な容姿で構わない。中身が美しくあればそれでいい。わざわざ自分を飾り立てる必要なんてない。人は、内側からにじみ出る美しさが全てだと思う。

 ルシアナとの価値観は真逆で、この差を埋めることはきっと叶わないだろう。
 だからケイリーの中の妃候補リストから、早々にルシアナを消したはずだったのだが……。

 どうしても目が離せなかった。

 憎まれ口を叩いてくるのに不思議と嫌な気はせず、むしろ自分を煽ててくるウィンストンに抱いた嫌悪感の方が酷かった。
 彼は外見を重視する人柄のようで、婚約者となるベロニカへの言い様は、聞くに絶えないものだった。
 ルシアナもウィンストンと同じ外見至上主義のはずなのに、ルシアナには違う感情が生まれたのだから不思議だ。

 本来なら三日前にしたあの話は、ルシアナにではなく、公爵か実質的な領主であるルシアナの父にするべきだった。
 あの二人ならばケイリーの言うことに真摯に耳を傾けてくれただろう。

 けれどケイリーが選んだのはルシアナだった。

 彼女なら何かしてくれる。
 ウィンストンの案に流されず、きっとルミナリアの民の為に行動してくれる。
 2週間弱の滞在でルシアナを見ていたら、そんな風に思えた。

 だからこそケイリーは、心の底から残念に思う。

 彼女と価値観さえ合っていれば、と。
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