髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

 気を取り直した理髪師にカットしてもらい部屋へと戻ったルシアナに続いて、不安げな顔をしているモニカも入ってきた。

「ルシアナお嬢様、どうなさったのですか? 今日は何だか様子が変ですが」
「変って何が?」
「よく分からないことばかり仰っているではありませんか。コンディショナーだとかキュー何とかとか、先程はレイヤーでしたっけ?」
「ああ、それはね、わたくし熱を出している間に自分の前世が理髪師だったって思い出したのよ」
「…………お嬢様、今お医者様を呼んでまいりますね。今しばらくお待ちください」

  くるりとドアの方向へターンしたモニカの腕を、ガシッと掴んで引き止めた。

「信じられないかもしれないけど本当よ。そういう訳だからモニカ、髪切りバサミを持ってきて 」
「今度は一体、何をなさるおつもりですか!」
「まぁそう慌てることなんてないから落ち着いて。とにかく髪切りバサミを貸してくれればいいから」

 モニカが自分の前髪を切るために、髪切りバサミを持っている事くらい知っている。さぁさぁと促すと、ため息をひとつついてモニカが自分の部屋からハサミを持ってきた。

 髪の毛はさっきカットしてもらった時のままで、まだ湿っている。ドレッサーの前に座ったルシアナはくしとヘアクリップを使って髪の毛をブロッキングして、さらにモニカに借りたハサミを使って髪を切ろうとしたその瞬間、モニカが悲鳴を上げた。

「おおおお嬢様っ! まさかご自分で髪を切ろうとしているのですか?! ダメですよ、絶対っ!」
「だーいじょうぶ! まあ見ていて」
「なにが大丈夫なんですか! あぁっ……!!」

 はらり、とプラチナブロンドの髪の毛が床に落ちた。

 どうせなら、思い切ってきっちゃおーっと。

 口元に手をあてて固まっているモニカをよそに、調子づいてきたルシアナは軽快なハサミさばきでチョキチョキと自分の髪をカットしていく。

 ああ……なんだか懐かしいわ。
 前世で美容師になろうと志して専門学校へ入る前には、自分の髪の毛でよく練習したんだっけ。

「よしっ! こんな感じでいいんじゃないかしら? さて、あとは乾かしてからドライカットで仕上げっと。モニカ、お願いしますわ 」

 呆然として見ていたモニカはハッとして我に返ると、ルシアナの頭に手のひらを向けて魔法の呪文を唱えた。

「アエオリア・ブロウタス、風よ吹け!」

 この世界には以前居た世界のように電気を自由に使えない。電気と言えば雷か静電気くらいだけれど、魔法という不思議な現象をおこすことはできる。ただし魔力があればの話で、ルシアナには魔力は皆無だ。
 モニカは魔力が強くはないものの、ちょっと風を吹かせてみたり、光を灯したりくらいの魔法は使えるので、こうしてよく髪の毛を乾かしてもらっている。
 髪の毛を乾かし終わった後はさらに仕上げのカットをし、ヘアオイルでスタイリング。
 一通りやり終えたルシアナは鏡に映った自分を見て呟いた。

「やだ、わたくしの可愛いさ二割増じゃない?」

  腰まであったルシアナの髪は鎖骨の辺りまでバッサリと切って短くなり、ふわりと風に舞いそうな軽やかな頭になった。
 さらに気になっていた面長な顔は、頬骨の辺りに横幅が出るようにカットしたおかげで縦ラインが和らいで卵型に近づいたように見える。

「本当ですね……。これは二割増どころか倍です、倍!!」

 ついに仕上がったルシアナの頭を見たモニカも、コクコクと何度も頷いて同意した。

「ですが……こんなに短くしてしまって、奥様がなんと仰ることやら……」
「あら。大丈夫よ、多分。丁度夕食の時間じゃない? 早速みんなにお披露目出来ちゃうわ!」
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