髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

13. ルシアナ、説得する

 ルシアナは時や場所を変えて何度も聞きこみ調査をしたが、やはり意見は概ね一緒だった。
 これから領地再興の為、本格的に動き出す前に両親――特に父の許可を得なければならない。という事でルシアナは今、祖父を伴い父の執務室へとやって来ている。

「ルシアナ、お前はまだ12だぞ。子供のお前さんに何が出来るって言うんだい?」

 組んでいる手に額を乗せながらルシアナの話を聞いていた父が、こちらを見ずにそのままの姿勢で、低く唸るように言った。

「出来るかどうかは分かりません。でも、やってみなければ。領民たちの気持ちを考えたら、お父様だってカジノリゾート計画は推し進めるべきではないと思いませんか?」
「私だってね、あれこれ考えて色々やってみたさ。けれど結局どれも採算が取れないどころか大赤字で終わって……。父上だってそうでしょう? 我が家は領地運営の才に長けた者が輩出されない。そういう家系なんだよ」

 疲れきった顔で首を振る父に、ルシアナはふんっと鼻を鳴らした。

「お父様やおじい様、それより前のご先祖さまのことは知りませんわ。まだ何もしていないわたくしまで一括りにしないで下さいな」

 大人はなんだってこう、いかにも全てを分かりきった風に言うんだろう。
 確かにまだ子供だけれど、今この場にいる誰よりも可能性を秘めている存在だと、ルシアナ自身は思っている。
 やる前から諦めさせるなんて、一番やったらいけないやつじゃない。
 思春期特有の反抗心が相まったルシアナは、いつになく父に苛立っている。

 温厚な父も、この強烈なルシアナの返しにはピクリと眉尻を上げた。

「失敗したら、子供のお前がどう責任を取る?! 何万人もの領民の生活がかかっているんだ。子供の思いつきでやって、『ダメでした。ごめんなさい』じゃ済まないんだぞ!」

 そんなことは分かっている。
 でもやる前から『どうせ失敗する』の精神でどうするのだとルシアナは言いたい。
 その一方で、父の気持ちも分からなくはない。

 前世の自分もそうだった。

 若い頃は大した根拠もなく、アレをやりたい・コレをやりたいで夢いっぱい。
 けれど歳を重ねる毎に『私は◯◯だから~』
『もう少し経験を積んでから~』と自分自身に言い訳をするようになって、臆病になっていった。
 それを人は社会的な経験を積んで大人になったからだとか、守るべきものが出来たり責任が大きくなったからだと言うかもしれない。

 その通りだったとしても、前世の自分は最期の瞬間、生き抜いたという満足感よりも無念の方が勝っていた。 
 
 それも、もっとこんな事がしてみたかったという未来へのじゃない。
 やっぱりあの時、ああしておけば良かったという、過去への後悔だ。

 だからこそ今世では、過去に対する未練は残したくない。やれることは全てやっておきたい。
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