髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
心の中で葛藤を繰り返していると、コンコンッとノック音が聞こえてきた。
「ルシアナお嬢様、理髪師のサンチェス氏がお見えになりました」
「分かりましたわ。今参ります」
サンチェス氏はこの家の理髪師として出入りしている、ちょび髭のおじさん。
ルシアナは自分が美容師だったことを思い出してからはセルフカットしているので、彼と会うのはしばらくぶりで、今日はカットとは別に用件があって来てもらった。
待たせている応接室へと入ると、サンチェス氏は小さく悲鳴をあげた。
「ルッ、ルシアナお嬢様!! 暫くお会いしない間になんという髪型に……!」
「うふふ、かわいいでしょ?」
「かわいいですって? あの美しい御髪が、こんなに短く……。一体どこの理髪師にこんな髪型にされてしまったのですか?!」
涙目になって慌てている様子を見ると、サンチェスがルシアナの髪を大切に思いながら手入れしてくれていたことが分かって、今更ながら感謝の念が込み上げてきた。
やはりサンチェス氏は尊敬も信頼もできる理髪師だわ……。
ルシアナのこの頼みを託せるのはやはり、彼しかいない。
「自分で切ったのよ」
「ご、ご自分で切られたのですかっ?!」
掴みかかってきそうな勢いで迫られて、ルシアナは「まあまあ」と落ち着かせる。
「サンチェスさんったら落ち着いて。それから、この国の全ての常識を一旦忘れて、わたくしの顔と髪をよーく見てくださいませ。無礼だなんて言いませんわ」
「全ての常識を……?」
「そうです。貧乏人の髪は短いだとか、貴族の女性は長髪だとか、そういった常識全てですわ。ただ、わたくしのかわいさを堪能して欲しいんですの」
自信満々に微笑むルシアナ。
少々面長だとか、耳が人より大きいだとか多少の欠点はあるけれど、ルシアナは今のこのヘアスタイルにしたことで、それらの欠点を上手くカバー出来ていると思う。
最初こそ戸惑いをみせたサンチェスだったが、ルシアナが言った通りに、じっと顔をみつめてきた。