髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

17. ルシアナ、オイルに思いを馳せる

 さてと、サンチェスさんへのお願いも無事に済んだことだし、ヘアケアアイテムをどうするかよね。
 サンチェスとの面会を終え部屋へと戻ってきたルシアナは、色んなハーブや果実から採ったエッセンスを手に取っては混ぜて、ひたすら試作品を作ってみる。

 サラサラとしっとり。せめてツータイプは欲しい。それに香りだって重要だ。
 配合割合を変えて試していると、甘い焼き菓子のいい香りが漂ってきた。
 モニカがお茶と菓子とを持ってきてくれていた。コポコポとティーカップに紅茶を注ぎながら、休憩するように促してくる。

「あまり根詰めると良くありませんよ。少し休憩なさって下さい」
「そうは言っても、のんびりなんてしていられないわ。だってウィンストンが帰ってくる前に結果を出さなきゃ意味が無いんだもの」

 ふぅ、と息をついて紅茶を一口飲み、焼き菓子を頬張った。
 ウィンストンとベロニカはつい先日、正式に婚約をし、そしてウィンストンは遊学の旅に出た。
 早くて三年、遅くとも四年後には遊学を終えて結婚する予定だと言っていたから、その前までにルミナリアの財政を立て直す必要がある。

 考え事をしながら口に含んだクッキーをもぐもぐと咀嚼すると、歯にジャムがくっ付く。

「んんー、このジャムサンドクッキーのねっとりした感じが美味しいのよね。でも歯にくっつくからお茶会にはあんまり出して欲しくないわね」

 ジャムサンドクッキーは見た目がカラフルで可愛らしいのでお茶会などでもよく出されるのだが、正直、歯にくっついて食べにくいからこうやって一人で食べたいお菓子だ。
 
「ふふふ、確かにそうですね」
「オレンジ色をしているけど、今日のはあんずジャムよね。甘酸っぱくて美味しいわ」

 オレンジ色のツヤツヤとしたジャムは、ルミナリア第二の特産品、あんずから作られたジャムだ。
 りんごとあんずは寒さに強く栽培適地が同じなので、ルミナリアではりんごに次ぐ農産物となっている。

「あんずも不憫な果物よね。りんご以上に使い道が少ないもの」

 りんごはジュースやジャム、お酢に酒など加工品目も多いし、料理に使われることも多々ある。けれどあんずはジャムとドライフルーツ以外の使われ方はほぼされないので、りんごよりも苦戦を強いられているかもしれない。

「アップルシードオイルみたいに、新たな使い道を思いつけばいいんだけどね…………」
「?? お嬢様、どうかされましたか?」

 言葉を失い、手からポロリとクッキーが落ちた。

「わたくしったら、何てものを見落としていたのかしら……!」
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