髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
一方で、ルシアナに賭けてみたいと思う自分もいた。
もう一人の娘ベロニカの婚約者に、いずれこの家が飲み込まれてしまうのではないかと感じていたからだ。
ウィンストンはオリビアにも時々、上等な贈り物をしてくれていたが、あれらは全てこの家へ入り込むための投資だということは薄々感ずいてはいた。
けれどオリビアは現実を無視し続けた。
抗うよりも流されるままの方が楽だからだ。
夫が自分の運営能力を諦めているように、オリビアも自分をどこか諦めていた。
嫁いできて初めこそ夫に領地の運営が上手くいくようアドバイスし、時には尻を叩いて励ましてきたが、何も変わらないどころか悪化していく現状に、次第に目を背けるようになっていた。
ベロニカには申し訳ないが、苦汁を飲んでもらうしかない。
夫も自分もウィンストンの意に従いながら生きていくことでしか、この地の民を救えない。
そう思うだけのオリビアと違い、妹のルシアナは真っ向から立ち向かうつもりでいる。いずれこの家を去る身なのに、誰よりも強い闘志を燃やしている。
黙って見守っているうちに、変化は少しずつやってきた。
オリビアはこの家の女主人だ。使用人達の変化にオリビアが気が付かないわけがなかった。
ルシアナが試作品を使用人達に試して貰っているようで、「あのトリートメントは良かった」だとか「髪の毛が綺麗にまとまる」だとか、邸のあちこちで使用人達が楽しげに話す様子が見られるようになった。
さらに理髪師ギルドの親方達が公爵邸を訪れて、騎士や使用人たちの髪の毛をルシアナ指導のもとでカットしているお陰で、邸にはこれまで見た事がないような色んな髪型の人が行き交うようになった。
最初は珍しい髪型にカットされることを恐れていた者たちも、次第におしゃれな髪型と思うようになったのか、カットモデルに名乗りを上げる者は後を絶たなかったようだ。