髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
確実に変わり始めている。
笑顔が溢れ、機嫌よく仕事をこなす者たちに囲まれ、オリビアもルシアナを応援したい気持ちになった。だからこそオリビアの開くサロンにルシアナが参加することを許可したのだが……。
不安げに娘を見やるオリビアに、ルシアナはパチンっと片目を閉じて見せた。
「わたくしが必ず成功させてみせますから、お母様はただ見ていて下さい」
サロンを開く時間が近付いてくると、続々と客人達が部屋へと集まってきた。人数は総勢30名ほど。その内の一人が挨拶をしに来た。
「オリビア様、御機嫌よう。本日は私のみならず、娘も御招待頂きありがとうございます。なんでも今日のサロンのテーマは、最新の美容に関することとお聞きしましたわ。娘と楽しみにしておりましたの。ね?」
夫人に目配せられた年頃の女性は、嬉しそうに頷き返した。
「はい。しっかりとメモを取ってから帰ります」
「それは勉強熱心でよろしいこと。お二人共、今日は楽しんでいってね」
ふふふ、と笑ってから心の中では盛大に息をついた。
落ち着いて。落ち着くのよオリビア。
娘を信じるの。
通常、サロンと言えば夫人が集まる場だ。けれど今回は結婚適齢期にある娘を持つ夫人に声を掛け、娘と一緒に来てもらった。
貴族の女性は一般的に美容にかける熱量が高く、お金も惜しまない。そして若い女性ほど流行にも敏感だ。
より幅広い年齢層に集まった方が良いのではないかとルシアナに提案すると、「お母様! 流石ですわ!」と言って喜んで受け入れてくれた。
だから招待状には、親子での参加を勧める旨を書き記し準備をしてきた。
「皆様、今日はようこそおいでくださいました」
招待客が全員集まったところで、オリビアは部屋にいる客人たちに声を掛けると視線がこちらに集まった。
皆いつもとは違うサロンの雰囲気に、ワクワクを隠せないようだ。オリビアが何をする気なのか注視してくる。
「今年一番初めの私のサロンでは、最新美容をテーマにお話しをしようと思っております。若い娘さん達も興味があるかと思って、今日は特別に招待させて頂きましたわ」
オリビアがご令嬢たちに微笑みかけると、口々にお礼の言葉を述べ始めた。
「ありがとうございます、オリビア夫人」
「お招き頂き光栄にございます」
「さて、皆さま。先程からあちらの台に置かれている、ボトルや石鹸が気になっているのではありませんか? 今日は娘が自分で開発した、ヘアケアアイテムについて紹介したいと言っておりますの。是非聞いてやって下さいな。もちろん売りつけるつもりなんて有りませんよ」
冗談めかして言うと、アルベリア伯爵夫人がコロコロと笑って扇子で口元を隠した。