髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

「やだわぁ。あたしったら、てっきりお金に困って買って欲しいって話かと思いました。ねえ?」

 アルベリア伯爵夫人の隣にいた子爵夫人は、困ったような曖昧な笑みを浮かべて、目を泳がせている。

 やはり、呼ぶんじゃなかったかしら……。

 アルベリア伯爵夫人は、どこかオリビアの事を下に見ている節がある。それは同じ国の北部に領土を構えているのにもかかわらず、財政状況に雲泥の差があるからだろう。
 しかも、昨年ケイリー王子が遠回りした時、公爵邸での滞在期間が随分と長くなったことに不満を漏らしていたと小耳に挟んだ。
 伯爵夫人には今日連れて来ている娘の他に、ルシアナと同い年の女児がいる。つまりケイリー王子の伴侶候補になりうる子だ。
 ケイリー王子は毎年アルベリア伯爵の所へ避暑に訪れているので、二番目の娘とは親交も厚いし、家門的にも十分に候補に入る。
 そういった意味でも伯爵夫人は、オリビアをライバル視している。

 だから呼ぶべきかどうか迷ったのだが、アルベリア伯爵夫人は中央の社交界でも顔の知られるご婦人だ。伯爵夫人に気に入られれば、ルシアナのヘアケア製品が早く国中に広まるだろうと思い招待状を送った。

「まさか、そのような事は致しませんよ。ただこれから世に売り出す前に、娘は皆様の意見を聞きたいそうですわ。さあルシアナ、いらっしゃい」

 呼ばれてオリビアの前に出てきたルシアナを見た一同は、「え?」と声を漏らした。

「オリビア様、娘というのはベロニカ様ではなくルシアナ様ですか?」
「そうですわ。ルシアナが開発しました」
「まさか……」
「ルシアナ様はまだ12、3歳くらいではなかったかしら?」
「大丈夫なのかしら……?」

 オリビアが「娘が」と言った段階では、当然姉のベロニカを指していると思っていた一同に動揺が広がった。
 
「皆様が不安に思うのも無理はありません。けれどどうか、今しばらく娘の話しに耳を傾けてやって下さいまし。ルシアナ」
「はい」

 頑張ってね。と目線に気持ちを込めてルシアナを見ると、少しだけ緊張しているのか表情がいつもより強ばっている。
 
 当然だわ……。まだ12にしかならない子供だもの。

『母がついています。いつもみたいに思い切ってやりなさい』

 小声でルシアナの耳元に囁くと、ハッとしたようにこちらを見て笑い返してきた。

 ルシアナ、貴方を信じるわ。
 私ももう覚悟を決めたの。全力で貴方を応援するとね。
 
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