髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

19. ルシアナ、実演販売をする

 お母様もわたくしを応援してくれるのね。
 
 母から思いがけないエールを貰ったルシアナは、手の震えが止まり、体の奥から力が湧いてくるような不思議な心地がした。
 家庭教師の授業をほっぽり出して、あちこち動き回るルシアナに、母はいつも苦虫を噛み潰したような顔をしていたのに……。
 特にルシアナが鋏を持ち、使用人達の髪の毛を切っている時なんて、いかにも「貴族の娘がすることじゃない」と顔に書いてあった。
 ずっと口出ししたいのを我慢してきた筈だ。

 ぐっと拳を握りしめて母に笑い返したルシアナは、用意した石鹸を手に説明を始めた。

「皆様は洗髪をする際、こんな事を思ったことはありませんか? もっといい香りで髪の毛を洗えたら、もっと早く髪の毛を乾かせたら、もっと自分の髪が美しかったらって」
「確かに早く髪を乾かせたらとは思いますね。特に冬なんて暖炉の前で震えながら、長い髪が乾くのを待つんだもの。髪を乾かしてもらうために、何度魔法使いを雇おうかと思案したことか」

 魔法使いはそう多くない。だから多くの人が魔法使いを雇いたがるし、魔法使いの方もなるべく給金が高く、雇用条件の良い場所で働きたがるため、雇うにはかなりお金がかかるのだ。
 一人の客人の言葉に、うんうんと皆が頷いている。

「ここだけの話、私は年々髪の毛のパサつきが気になってきておりますわ。若い頃はスっと綺麗に纏まったのに、歳を重ねるごとにツヤもなくなるし」
「私もシャーロット夫人と同じことを思っていました。ツヤを出したいがためにオイルを塗るけど、どんどん髪が重たくなってベタつくいてしまうの」

 分かるわぁ、と夫人方は盛り上がりはじめた。
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