髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「わ、わたしは、お恥ずかしながら頭が痒くなりやすくて。その……洗ってないとかではないんです。ちゃんと洗髪しているんですけど……」
令嬢たちからも色んな意見が出始めた。
やっぱりみんな、それぞれ悩んでいたんだわ。
「わたくしが考えたヘアケア製品は、バスタイムを楽しく、そして自分を好きになることをコンセプトに開発しました」
「バスタイムを楽しく? それなら湯船に香油を垂らして、花でも散りばめたら宜しいのではなくて?」
アルベリア伯爵夫人が試すような目でルシアナを見てきた。
食ってかかってはダメよルシアナ。
アルベリア伯爵夫人にだって、必ず不満はあるはずなんだから。
「もちろんそれも一興でしょう。ですがわたくしが言いたいのは洗髪時の話です。シャンプーを終えたあと、酢水に髪をつけてすすぎますでしょう? あの酸っぱい香りが気になったことはございませんか?」
「確かにね。だからあたくしはレモン汁にして貰っているわ。爽やかないい香りよ。皆さんも是非お試しくださいな」
流石はアルベリア伯爵夫人。北部の貴族の中でもお金持ちなだけある。
おほほほほ、と高らかに笑っている伯爵夫人の後ろでおずおずと手を挙げたのは、姉と親交のある令嬢だ。
「あのぉ、我が家はレモン汁をそんなに贅沢に使うことは出来ないので……。私、以前試したことがあるんです。酢水に香油を垂らしたらいい香りになるんじゃないかなって思って。バラとかラベンダーとか。そうしたら酷い匂いになってしまって」
「確かに、穀物酢の香りに花の香りは合わなそうですものね」
アルベリア伯爵夫人を除く一同が頷いているのを見計らい、ルシアナはりんご酢の入った瓶を手に持った。
「わたくしがこれから貴族から平民まで、幅広くオススメしようと思っているのはこちら、りんご酢です!」
「りんご……酢……?」
「ねぇ、使ったことある?」
「いえ、果実酢と言えばバルサミコ酢くらいしか……」
ザワつく会場内の客人に瓶の蓋を開けて匂いを嗅いでもらうと、「あら!」と歓声があがった。
「確かにツンとはするけれど、穀物酢程じゃないわ」
「ええ、フルーティでいい香り」
盛り上がる客人たちを尻目に、伯爵夫人は鼻を鳴らした。
「香りが良いだけなら、やはりあたくしはレモン汁で十分。わざわざりんご酢に変える必要はないわ」
「確かに香りだけならば、そのままレモン汁をお使いになればよろしいかと思います」
ルシアナはふっと口元を弛めて、もうひとつの瓶を手に取った。
「ただし、先程のただのりんご酢は、平民の中間層に広めるつもりで考えています。今ここに居る貴族の皆さまや富裕層向けには、こちらのワンランク上の物を御用意しておりますわ」
「ワンランク上とはなんです?」
穀物酢の代わりにりんご酢を使うアイデアで、会場内の雰囲気が格段に良くなっている。
早く知りたい! と言うわくわく感が伝わってきて、ルシアナの説明にも熱が入る。