髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

20. ルシアナ、王都へ行く

 馬車に揺られること3週間あまり。やっと王都に入った。
 ルシアナがカチコチに凝り固まった身体を上下にググッと伸ばして深呼吸すると、モニカから「コラッ」とでも言いたげな視線が送られてきた。

「もうお尻と腰が限界だわ」
「2日後には王宮に着くそうですよ。あと少しの辛抱です」

 窓から外の街並みを伺うと、王都の外れとは思えないほど道は綺麗に整備され、家が立ち並んでいる。街道沿いにはアーモンドの木が植えられていて、愛らしい淡いピンク色の花が春の訪れを告げていた。

 ルシアナが故郷のルミナリア公爵領を発ったのは、まだ雪と雨が混じり合う季節だった。王都へと南下してきたので、随分と暖かく感じる。

 ルシアナはあとひと月もすれば16歳になる。
 この国では通常16歳で社交デビューを果たすのだが、今回ルシアナが王都へ向かっている理由はデビュタントボールへ参加するためではない。
 王女から仕事を仰せつかったから。

 ヘアケア製品の開発と普及をはじめてから3年半。ルシアナ印のヘアケア製品は、アルベリア伯爵夫人の強力なバックアップもあって、瞬く間に広まった。
 生産量を増やす為にリンゴ農家や加工所、それから運送屋に商会など、ルミナリア中がてんてこ舞いで、嬉しい悲鳴をあげている。

 そして髪型についても、同じことがジワジワと起こりつつある。
 理容師ギルドを通じて今までにないカット方法や髪型が広まり、ルミナリアに住む民の髪型は皆一様ではなく個性的になった。
 初めは変わった髪型だと奇異の目を向けてきた人たちも、オシャレに興味のある若い女性達を中心に広がりをみせ、今では領地外からわざわざルミナリアの美容室までカットしに来る者までいるそうだ。

 このルミナリア公爵領から始まったヘア改革の立役者、ルシアナの名は社交デビュー前から世間で知られる事となり、とうとうその名が王室にまで届いたらしい。
< 83 / 137 >

この作品をシェア

pagetop