髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

「ベアトリス様も大変な美女だと聞いております。猛アプローチをされた末に、とうとう王女様が折れたのだとか」
「ふふっ、そんなに愛されて嫁ぐというのは羨ましい限りですわね」
「お嬢さま、他人事ではありませんよ。もう16になるのですから、そろそろ御結婚も視野に入れませんと」
「はいはい」

 ウィンストンの件があってから、ルシアナの中で結婚に対する期待とか夢とか、そういったピンク色のほわほわーんとしたものは一切なくなってしまった。
 結婚相手はあくまでビジネスパートナー。このまま一生恋を知ることなく、仕事に生きることになるかもしれない。

「そんなことよりも、理容師の件について考えてみたのだけれど、ルミナリア理容師ギルド認定制度を設けるというのはどうかしら? 認定店にはお店に看板を下げてもらうとか。箔がついていいんじゃない?」

 ルミナリア地方を発端としたヘアスタイルの流行が各地に広がりをみせるにつれ、当然、技術の流出は免れないだろう。今でこそルミナリアの理容師にしか出来ないからと、わざわざ公爵領にまでお客がやって来てくれているが、それもいつまで続くか分からない。
 ほかの地域の理容師もただ指をくわえて眺めているだけではなく、きっと技術を盗んで真似する筈だ。
 ルシアナとしては理容師全体の技術が上がるのは嬉しいが、ギルド長のサンチェス氏は眉根を潜めていた。
 ルミナリアの理容師達が面白くないと感じるのも無理はないと思うし、だからと言って技術の流出は免れない。
 ならば先手を打って、ルミナリア理容師ギルドの御墨付き制度なるものを作れば、ルミナリアの理容師達の溜飲も下がるのではないかと考えたのだ。

「はぁ……ここ最近のお嬢様は仕事の話ばかり……」
「うん、いい考えだわ」

 小言を言うモニカを無視して、早速自分の考えを紙にしたためる。舗装された道を通っているとはいえ、多少揺れるので文字が歪になってしまうが、まあいっかと開き直った。
 一分一秒でも時間が惜しい気持ちを、執事のルードルフなら理解してくれるだろう。
 
 ルードルフはあえて今回の仕事には連れてこなかった。ルシアナが出す指示を的確に理解し実行してくれる人をルミナリアに残す必要があったから。ルードルフは今ではルシアナに欠かせない右腕となっていた。

「これでよしっと。ルードルフに届けてもらうようお願いね」
「かしこまりました」

 あきらめ顔でモニカが手紙を受け取った。

 ベアトリス様、いい人だといいんだけどなぁ……。
 ひと仕事終えたルシアナは、馬車の中でウトウトと眠りについた。
 頭に思い浮かぶ王女像が、いつの間にかケイリーの姿に変わっていることも気づかないまま。
< 86 / 137 >

この作品をシェア

pagetop