髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革

22. ベアトリス、ケイリーを訪問する

 日が暮れてきた。
 ベアトリスはついてきた侍女に「ここまででいいわ」と声を掛けると、目の前のドアをノックした。

「ケイリー、私よ。ベアトリス。入ってもいい?」

 返事がないのはいつもの事。しばらく待っていると、小さくドアが開いた。

「……どうぞ」

 ケイリーはドアの隙間からベアトリスの姿を確認すると、部屋の中へと入れてくれた。
 東側にある王族の住まいは、早くから暗くなる。灯りをともす魔道ランプが一つだけついたケイリーの部屋は、薄暗い。
 弟の姿は弱々しい明かりに、ぼんやりと浮かぶだけだ。

 暗い部屋で過ごすと気持ちも落ち込みやすくなるからと、ランプをもっと付けるようにと言ったのは3年ほど前のこと。
 あの時ケイリーは激怒した。
 「灯りなんか付けるな! 僕を見るな!」とランプを叩き割って、部屋から追い出された。
 それ以来、ベアトリスを含め他の者も、灯りを足しましょうなんて絶対に口にしない。

「……何か用?」

 ぶっきらぼうに投げかけられた言葉に、ベアトリスは一瞬怯みかけた。

「きょ、今日はね、デビュタントボールの衣装やヘアメイクのリハーサルをしたの。どう、可愛いでしょ? 特にこのヘアセットが気に入って、ケイリーにも見てもらいたくなっちゃって」

 無理やり笑顔を捻り出し、うふふと笑って見せた。
 こうして何かしら理由を付けないと、ケイリーは会ってくれない。
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