髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
昔は仲の良い兄弟だった。いや、今も仲良しだと思いたい。
ベアトリスには他にも弟が二人いるけれど、ケイリーとは双子の兄弟のせいか、どこか特別な思いがある。
弟二人がケイリーとの交流を諦めても、父や母の期待が弟二人の方へいってしまっても、ベアトリスはケイリーを諦めたくはない。
「……その髪、ルシアナがセットしたの?」
珍しくケイリーの方から質問が来た。
やっぱりケイリーはルシアナの事が気になるんだわ。
大怪我を負ってベッドに伏せている時、ケイリーはよくルシアナの話しをして、ルミナリア公爵領を気にかけていた。
「そうなの。ドライヤーという魔道具の次は、コテという魔道具も開発しているんですって。私のようなストレートヘアでもあっという間に巻き髪に出来るのよ。まだ試作品の段階だそうだけど、使うのに支障はないからとひと足お先に使ってヘアセットしてくれたのよ。それからストレートアイロンって言ったかしら。そちらは髪の毛を真っ直ぐにする魔道具で、寝癖がついちゃった日でもアレがあれば安心だわ。侍女達なんて、こぞって予約して……ふふ、ルシアナったら顔がにやけちゃってるの。すぐ気持ちが顔に出るんだから」
思い出し笑いをしながら、ベアトリスは近くにあったカウチに座った。窓際に立つケイリーの横顔にどことなく笑みが浮かんだように見えて、ベアトリスの緊張も少しだけ解れた。あと少しだけ、長居してもいいだろう。
「ルシアナは姉さんのところでも頑張ってるみたいだね」
「ええ、期待していた以上よ。見てよ、この髪。ツヤツヤでしょ? もともとルシアナが開発したヘアケア製品は使っていたんだけど、ケアの方法も大事なのね。正しい手入れの仕方を、他の侍女にもレクチャーして貰っているの。それにヘアアレンジやメイクもとっても上手よ」
わずか16歳の子が、あそこまで知識が豊富だとは思ってもみなかった。
貴族の女性なら花嫁修業として侍女となり、主人のメイクやヘアセットをするものだが、ヘアカットや顔剃までこなせる者などそうはいない。
「でもね……ふふっ、ルシアナったら、あんなにしっかりしてそうに見えて、自分の事にはうっかりしているのよ」
「……?」
「舞踏会にデビュタントとして参加するっていうのに、エスコートをして貰うパートナーのことを忘れていたの」