髪の毛の悩みなら公女様にお任せあれ!~ヘアスタイルから始まる領地改革
「え……ケイリー……」
そういうこと、ね。
これは乗らない手はない。
「うん、そうね。それがいいわ! ケイリーがルシアナをエスコートしてあげてよ。私もケイリーに来て欲しいって思っていたの。だって私、もうすぐお嫁に行くのよ? お願い。ね?」
最上級のお願い光線を出しながら、たじろぐケイリーに近付いた。
「……僕なんかじゃ、ルシアナが嫌がるに決まってる」
「嫌だったらすぐ分かるわ。ルシアナだもの。ケイリーだって知っているでしょ? 少しでも難色を示したら提案は取り下げる」
ルシアナは良くも悪くもハッキリとした子だ。王女からの提案など普通は断れないものだが、ルシアナなら嫌ならすぐに顔に出るので分かりやすい。
「……ルシアナは今の僕を知らない」
「あら。かと言って以前のケイリーだって、あからさまに嫌われていたのでしょう? 大差ないわ」
確かにルシアナのあの様子だと、現在のケイリーがどうなのか知らないみたいだ。領地運営の事で頭がいっぱいで、王都のうわさ話など耳に入ってこないのだろう。
ルミナリア公爵領に滞在していた時、ルシアナと嫌味を言い合う仲だったと、昔楽しげに話していた。
キラキラと輝くあのケイリーに、好意ではなく自分の意見をぶつけて嫌味を言ってくる令嬢など他にいなかったから、余程嬉しかったのだろう。
ケイリーとよく似るベアトリスは、その気持ちがよく分かる。
この見た目と性格から、好意を寄せられることはよくある。同性ならば嫉妬を買うこともしばしば。
そうやって生きてきていると、嫉妬心からではなく、意見や主張の違いによる対立は新鮮に感じられるし、こちらも猫を被らず本心をぶつけられる。そういう相手は本当に稀有だ。
「ルシアナにそれとなく打診してみるから。それとも紳士らしく、自分で申し出る?」
「……」
肯定はしないが否定もしない、ね。
止めろと言わないのは、ケイリーも暗闇から抜け出したいと願っているから。
「ケイリー、お願いよ。ほんの少しだけ勇気を出して」
あと数年でベアトリスは王宮を離れる。
ベアトリスがいなくなったら、ケイリーはこの暗闇に取り残されてしまう。
「お願い……」
泣いたらケイリーが困るとわかっているのに。
涙をこらえきれなくなったベアトリスは、ケイリーの部屋から飛び出した。