眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
交番員たちが次々と署に戻ってくる朝、新田は早瀬と共に、生活安全課内の緊急会議を設定した。
臨場できなかった署員も集めて、昨夜の臨検事案について、詳細な情報共有を行う。
「間一髪だったな……」
その言葉が誰かの口からこぼれたとき、署内の空気はわずかに緩んだ。
救えた――それは間違いない事実だった。
けれど、安心と同時に、自問も生まれる。
あの子の命は助かったが、もっと早く動けたのではないか。
あの夜、通報一本で駆けつけていたら、もっと軽症で済んだのではないか――。
署員たちの受け止め方は様々だった。
けれど、新田にはわかっていた。
誰よりも、その事実に安堵していたのは、隣に座る早瀬だった。
警察署の玄関先で、タクシーに乗り込もうとする花音に、何度も「送る」と言い、
最後には「もし具合が悪くなったら、絶対に連絡ください」とまで伝えた彼の声は、
心配というより、ほとんど“悲痛”に近い響きだった。
“ああ、この子の『大丈夫』は、本当は大丈夫じゃないかもしれない”――
新田はその時、胸の奥がぎゅう、と苦しくなるのを感じた。
警察官としての直感か、それともただの情か。
どちらでもよかった。
ただ、見ていられなかった。
新田は思い出す。
川野美咲宅で、児相職員・佐原花音が、母親の交際相手の早苗雄貴と言い合い、その中で足を捻挫したときのこと。
あのとき早瀬が漏らした言葉が、今も耳に残っている。
――「初めは手抜きに見えてたんです、正直。でも違った。制度の隙間で、命を守ろうとしている人たちだった」
警察の目からは、マニュアル通りの役所仕事に見えた児相の対応が、
実際には、迷いと苦悩の中での“最善”だったということ。
早瀬はそれを、花音の姿から痛いほど理解したのだ。
署内でもすでに、何人かの署員が口にしていた。
「あの児相の人……なんか違うよな」
表面的な書類対応でもなく、単なる事務処理でもない。
自分の体も、心も削って、それでも子どもを守ろうとしていた。
新田は、ずっと見てきた。
早瀬が新人の頃から、壁にぶつかって、空回りして、苦笑いして、
それでもまっすぐに、仕事に向き合ってきた姿を。
だからこそわかる。
あの二人の間には、職務を超えた、信頼が芽生えている。
上司として、それが仕事にどう影響するかを気にするべきかもしれない。
でも今は、ただ一人の人間として、こう思った。
「……よく、出会ったな」
この不確かな社会の中で。
命の重さを、同じ温度で背負える人に。
臨場できなかった署員も集めて、昨夜の臨検事案について、詳細な情報共有を行う。
「間一髪だったな……」
その言葉が誰かの口からこぼれたとき、署内の空気はわずかに緩んだ。
救えた――それは間違いない事実だった。
けれど、安心と同時に、自問も生まれる。
あの子の命は助かったが、もっと早く動けたのではないか。
あの夜、通報一本で駆けつけていたら、もっと軽症で済んだのではないか――。
署員たちの受け止め方は様々だった。
けれど、新田にはわかっていた。
誰よりも、その事実に安堵していたのは、隣に座る早瀬だった。
警察署の玄関先で、タクシーに乗り込もうとする花音に、何度も「送る」と言い、
最後には「もし具合が悪くなったら、絶対に連絡ください」とまで伝えた彼の声は、
心配というより、ほとんど“悲痛”に近い響きだった。
“ああ、この子の『大丈夫』は、本当は大丈夫じゃないかもしれない”――
新田はその時、胸の奥がぎゅう、と苦しくなるのを感じた。
警察官としての直感か、それともただの情か。
どちらでもよかった。
ただ、見ていられなかった。
新田は思い出す。
川野美咲宅で、児相職員・佐原花音が、母親の交際相手の早苗雄貴と言い合い、その中で足を捻挫したときのこと。
あのとき早瀬が漏らした言葉が、今も耳に残っている。
――「初めは手抜きに見えてたんです、正直。でも違った。制度の隙間で、命を守ろうとしている人たちだった」
警察の目からは、マニュアル通りの役所仕事に見えた児相の対応が、
実際には、迷いと苦悩の中での“最善”だったということ。
早瀬はそれを、花音の姿から痛いほど理解したのだ。
署内でもすでに、何人かの署員が口にしていた。
「あの児相の人……なんか違うよな」
表面的な書類対応でもなく、単なる事務処理でもない。
自分の体も、心も削って、それでも子どもを守ろうとしていた。
新田は、ずっと見てきた。
早瀬が新人の頃から、壁にぶつかって、空回りして、苦笑いして、
それでもまっすぐに、仕事に向き合ってきた姿を。
だからこそわかる。
あの二人の間には、職務を超えた、信頼が芽生えている。
上司として、それが仕事にどう影響するかを気にするべきかもしれない。
でも今は、ただ一人の人間として、こう思った。
「……よく、出会ったな」
この不確かな社会の中で。
命の重さを、同じ温度で背負える人に。