眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
出口の手前にあるお土産コーナーは、水族館の賑わいとは打って変わって、ほのぼのした空気が漂っていた。

棚には、ふわふわの海の生き物たちのぬいぐるみがずらりと並んでいる。クラゲ、アシカ、ペンギン、イルカ……どれもつぶらな瞳でこちらを見上げていた。

「……あ、かわいい」

花音がふと足を止めたのは、手のひらサイズのイルカのぬいぐるみ。つるんとしたフェルト地に、小さなヒレと、ちょこんとした尾がついている。

その横に並んでいた、水色とグレーの2種類のイルカを見て、早瀬が思わず手に取った。

「これ、さっき見たイルカに似てますよね」

「うん。すごく似てる」

花音が笑って言うと、早瀬は少し悩んだ様子でグレーのイルカを手にしたまま、もう片方の水色のイルカにも視線を移した。

「……こういうの、実はけっこう好きなんですよ」

「へぇ、そうなんですか」

「実家の猫に、おもちゃって言い訳して買ったりするので……」

花音はぷっと吹き出した。

「それ、完全に自分が欲しいやつですよね」

「バレてました?」

「丸わかりです」

からかうように笑い合ったあと、花音がふと何気ない口調で言った。

「じゃあ、色違いで買いましょうか」

「……え?」

「水色が私で、グレーが早瀬さん。なんか、その方が思い出になりますし」

早瀬は一瞬ぽかんとしたあと、柔らかく目を細めた。

「……いいですね、それ」

嬉しそうにイルカを手に取ると、レジへ向かいながら一言。

「このペアが職場にバレたら、新田さんに絶対冷やかされますね」

「うーん……でも言わないでくださいね。今日だけは、仕事の外ってことで」

「了解です。秘密のペアぬいぐるみですね」

「秘密です」

2人は、ぬいぐるみの袋をそれぞれ抱えながら、再び並んで歩き出した。

ただの観光地のお土産なのに、それは確かに、誰にも知られたくない“小さな秘密”になった。
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