眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
ミルクが花音の膝の上に乗りかけ、よいしょとよじ登る。花音は笑いながら手を添えて受け止めた。

それを見た母が、ふと思い出したように首を傾げた。

「……お仕事の関係の、友達?」

「はい、そうです」

花音が素直に答えると、母はさらに一歩踏み込んで尋ねた。

「じゃあ、あなたも……警察官?」

「いや」

その問いには、早瀬がミルクの頭を撫でながら口を挟んだ。

「生活安全課で関わってる、児相の人。」

「……じそう?」

父がぽかんとした顔で首を傾げる。

「児童相談所の職員です」
花音がにこやかに補足すると、父は「ああ」とゆっくり頷いた。

「なるほどねえ。大変そうな仕事だなあ」

「ほんとよね」
母も心配そうに花音を見て、穏やかに声をかけた。

「……無理しないでね。体、壊したら意味ないから」

花音は思わず背筋を伸ばし、丁寧にお辞儀をする。

「お気遣い、ありがとうございます」

その時、父がふと視線をテーブルの脇に置かれた袋に向けた。

「で……その児相の職員の佐原さんと、たくみが友達で、同じ紙袋にイルカの人形が入ってるわけだ。……なるほどなぁ」

「父さん、そういう分析いらないから」
早瀬がじろっと睨む。

「察してよ、ほんとに」

父は「いやいや」と手をひらひらさせて苦笑した。

花音は思わず微笑んでから、少し声を落として言った。

「……実は、つい先日。仕事の関係で早瀬さんに、助けていただく場面があって。今日はそのお礼も兼ねてというか……私のほうから“会いたい”とお願いして……」

言葉を選びながら、正直に、でも過不足なく伝える。

すると早瀬が、ミルクの背を軽く撫でながら、柔らかい声で付け加えた。

「まあここでは気を遣わなくていいですよ」

一拍置いて、視線はミルクのまま。

「……かなり辛い案件だったから。佐原さんはすごく心細かったと思う。だから一緒にいただけで」

ふわっと優しさだけが残るような声音だった。

「それだけだから。時が来たら言うから、詮索しないでください」

真っ直ぐな物言いに、両親は目を見合わせて──

母が少し笑って、「はいはい、わかりました」と言い、

父も「気になるけど……我慢するわ」と肩をすくめて言った。

その空気が、なんともいえず温かく、
花音は膝の上のミルクをそっと撫でながら、静かに小さく息をついた。

──この家に流れる、柔らかな時間が、どこか胸にしみた。
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