眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
冷やしうどんは、つるりと喉ごしがよく、暑さで火照った体に心地よかった。

氷でキンと冷えた出汁、添えられたミョウガや大葉も爽やかで、花音は思わず「美味しいです」と何度も口にしていた。

「おかわりあるわよ〜」と母に言われたが、「二杯目で十分です……!」と、苦笑い。

そんな食後、父が椅子から立ち上がった。

「じゃあ、ちょっと野菜採ってくるか。きゅうりとトマト、採り頃だったな」

その言葉に、花音も自然と立ち上がる。

「お手伝いしますよ。せっかくなので」

だがその瞬間、母がぴしゃりと制した。

「ダメダメ! 花音さんはお外に出ちゃダメ!」

思いのほか真剣な表情に、花音は思わず面食らう。

「え……?」

「熱中症になったんでしょう? 油断しちゃだめよ。暑さはこたえるんだから。回復してても、無理しちゃぶり返すのよ!」

ああ──この過保護な感じ、なんだかどこかで。

脳裏をよぎったのは、つい先日の夜のこと。

警察署の前で、早瀬に「送らなくて大丈夫です」と言ったときの、あの絶妙に譲らない優しさ。そのときの彼の表情が、ふっと母親の面影と重なった。

「じゃあ、俺手伝うから」

早瀬が立ち上がり、さっとグラスを片付けながら言う。

「佐原さんは、休んでて」

その声に、母はうんうんと頷いて、満足そうに笑った。

「ねえ、そうなのよ。大変なことはね、屈強な人に任せればいいの」

その「屈強な人」が自分の息子だと、ちょっと誇らしげな口ぶりで。

花音は笑いながらも、「本当に似てるな」と思わず心の中でつぶやく。

──優しさって、血筋なんだろうか。

戸口から出ていく早瀬と父の背中を、彼女は静かに見送った。

風鈴が小さく揺れて、ちりり、と涼しげな音を鳴らした。
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