眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
その時だった。縁側の障子ががらりと開き、外のまぶしい光とともに、早瀬と父が戻ってきた。

「ただいまー、収穫部隊戻りましたー」

両腕いっぱいに抱えたのは、瑞々しいナスやピーマン、ミニトマト、そしてどう見ても家庭菜園とは思えないサイズのズッキーニ。

「おぉー、すごい……!」
花音が感嘆の声をあげながら立ち上がり、ズッキーニの巨大さに目を丸くしていた──その時だった。

「……ん?」

野菜の隙間から、なにかが「むにょっ」と顔を覗かせた。……黒光りする、6本脚の、そいつが。

「……虫っ!!???」

「うわああああああああ!!!」
花音が思いっきり飛び退いた。

そのあまりの反応に、父はズッコケそうになり、早瀬は一瞬固まり──そして。

「ミルクー! 出番だ!!」

早瀬の号令のような声に反応して、どこからともなく駆けてきたのは、白いふわふわの猫──ミルクだった。

「にゃっ!」と一鳴きすると、野菜の山に向かって一直線。

「いや、ちょ、ま、ミルクちゃん!?」

花音の叫びもむなしく、ミルクはスムーズに野菜に飛び乗り、その黒い来訪者に俊敏な猫パンチをお見舞い。虫は華麗にひっくり返され、父の手のひらサイズのちり取りに収監された。

「……つ、強い……」

「ふふ、うちのミルク、虫だけは本気出すのよ」

母が得意げに胸を張る。

「えっ、虫担当なんですか」

「そう。私とたくみは苦手だから、ミルクが一家の最後の砦なの」

「……まさか猫に助けられる日が来るとは思いませんでした」

花音は額の汗を拭きながら、ズボンの裾をパンパンと払うと、ミルクにぺこりとお辞儀をした。

「ミルクちゃん……本当に、ありがとう」

「にゃっ」と小さく鳴いて、ミルクはすっと花音の足元にすり寄ってきた。

「わ、やだ、なにこれ……かわいい……」

「油断するとそのまま寝るぞ」

早瀬が笑いながら言うと、案の定、ミルクは花音の足元で丸くなり始める。

「……人懐っこいですね。癒し効果やばいです」

「でしょ。こいつ、初対面の客にも平気で腹見せるからな」

「もう、花音さんの足元から離れなくなりそうね〜」
と母もにこにこ。

その様子に、父は「ははは、こりゃミルクの“公認”も出たな」と笑いながら野菜を手際よく洗い始めていた。

──こうして、虫騒動もミルクの活躍で無事終息。
花音はすっかり家族の一員のように、あたたかな時間の中に包まれていた。
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