眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
静まり返った部屋に、テレビの音だけが流れていた。

報道番組。
映し出されたのは、心を押し殺すような小さな子どもの顔。
「虐待の実態」というテロップ。

──その瞬間、空気が変わる。

花音は、思わず画面に目を奪われてしまった。
でも次の瞬間、リモコンを取った匠が、迷いなくそのチャンネルを消す。

テレビの光が消え、部屋は静けさに包まれた。
匠の横顔には陰りがあった。

彼は静かに、花音の手に手を重ねた。
その温かさに、花音もそっと握り返す。

匠はそのまま、花音をソファに座らせた。
そして、自分も隣に腰を下ろすと、低い声で言葉を紡いだ。

「……あまり、自分を犠牲にしないで」

花音は、そっと目を伏せた。

「川野家の保護措置のとき……一瞬、本気で、花音も救急車必要かと思った。
声かけても、目が焦点合ってなくて。ぐったりしてて、息も浅くて……。
あのとき、……心配で、おかしくなるかと思った」

花音の目に、じわっと涙が浮かんだ。

「……でも、それでも止まれなかった。助けなきゃ、って」

匠は、花音の手を強く握った。

「……人を助けて、自分が潰れるのは、何にも褒められることじゃない。
だから、せめて僕の前では、強くなくていい。正しくなくていい。
そのままの、花音でいれば良いんだよ」

花音は、その言葉を静かに受け止めた。

泣かないって決めてたのに、どうしても涙がこぼれてしまう。

だけど、不思議とそれは「しんどさ」からじゃなかった。

「……ありがとうございます、たくみさん」

泣いているのに、笑ってしまう。
笑っているのに、また涙がこぼれる。

そのまま、ふたりは手を繋いだまま、言葉を交わさずにただそばにいた。

ご飯の炊ける、かすかな蒸気音が、静かな時間に溶けていった。
< 124 / 247 >

この作品をシェア

pagetop