眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
夕食が整った。
献立は、冷蔵庫といただいた野菜の中身を活かした、彩り豊かな献立。
・夏野菜の焼き浸し
・かぼちゃとツナの煮物
・小松菜と厚揚げのさっと煮
・ミニトマトのマリネ
そして、炊きたての白ごはん。

テーブルを挟んで向かい合い、ふたりは「いただきます」と声を揃える。
その瞬間、ふっと空気が和らいだ。

「……どう?味、濃すぎなかった?」

花音が少し心配そうに聞くと、

「うん、めっちゃうまい。優しい味。ほっとする」

匠は箸を止めることなく、そう答えた。

花音は少しだけ頬を染めて笑った。
「よかった……なんか、すごい久しぶりに、誰かに料理褒められた気がする」

「それは周りが見る目ないだけだわ」

「またそうやってすぐ甘いこと言う」

「本当のことしか言ってない」

からかうようなやりとりが、ようやく自然にできる空気になっていた。

ひと口ごとに、花音の顔に生気が戻っていく。
匠はそれが嬉しくて、何度も箸を止めては彼女の表情を眺めた。

少しして、花音が聞いた。

「……ねえ、たくみさんって、お昼ごはんはお弁当? それともコンビニ?」

「俺?だいたいコンビニかな。たまに、新田さんに菓子パンもらったり」

「……健康に悪そう……」

「新田さんはね、安全課のムードメーカーって感じ。面倒見よくて、お節介で、声でかくて……花音のこと、めっちゃ気にしてたよ」

「えっ、私のこと?」

「うん。こないだ倒れた後、『何やってんだアイツ、俺の大事な佐原だぞ!』って怒ってた」

花音は思わず吹き出した。

「なんですかそれ……新田さんって、優しい人なんですね」

「うん。うちの課はね、意外とみんな優しいよ。正義感強すぎて空回りするやつもいるし、言葉選び下手な人もいるけど、誰かを守りたいって気持ちは、本物の人ばっかり。俺、あのチーム好きだよ」

「……いいなぁ。そういう職場、羨ましいです」

「花音のとこも、頑張ってる人多いでしょ」

「うん……でも、保護の現場って、やっぱり緊張感すごいから、ふとしたときに孤独になるんですよ。自分だけが、怒られてる気がして」

「それ、めっちゃわかる」

ふたりの間に、共通言語が増えていく。
言葉にしなくても、同じ空気を吸ったことのある人にしかわからない感覚。
その理解が、じんわりと心をほどいていく。

「……ねえ、明日もちゃんと食べてね」

花音が言った。

「うん、約束する」

匠が答えた。

その声も、少しだけ優しくなっていた。
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