眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
児童相談所に入ると、まだ始業前だというのに、すでに何人かの職員が席についていた。

その視線が、一斉に花音に集まる。

「佐原さん! 大丈夫?」
「熱中症だったって、本当?」
「臨検対応、お疲れ様でした……!」

次々にかけられる言葉に、花音は少し戸惑いながらも、「すみません、ご心配をおかけしました」と軽く頭を下げた。

中でも、特に申し訳なさそうな顔をしていたのは、鈴木あけみだった。

「ごめんね……私の代わりに行ってもらって、しかもあんな大変なケースに当たっちゃって……」

花音は首を横に振った。

「いえ、もし臨検の判断が入るようなら、担当の私が結局呼ばれてたと思いますし……逆によかったです。鈴木さんも無理なさらないでくださいね」

鈴木は、ホッとしたような、でもまだ罪悪感が抜けないような表情でうなずいた。

席に着くと、隣の三宅が、口をキュッと結んで花音を見ていた。

「……佐原さん。徹夜の臨検だったんでしょ?しかもあの猛暑。現場の警察官もバッタバタだったって聞いたけど」

花音は苦笑しながら頷いた。

「はい。途中で立ち上がれなくなった方もいて……意識が朦朧とした方もいました」

「それ警察官でしょ? なら、あなたはもう限界突破でしょ」

「はい、たぶん……人生で感じたことのない感覚でした」
そう言って、冗談めかして笑ったが、三宅は笑わなかった。

「笑い事じゃない、佐原さん。で、単独対応だったんでしょ?最後まで誰も回せなかったの?」

「単独でした。でも……熱中症になってからは記憶も曖昧で……あっ!」

と、突然思い出したように声を上げた。

「公用車どうしたっけ!?私、運転した記憶が……」

三宅は呆れたように、でもどこか心配を込めて言った。

「警察署に置いてあったのを、金子さんが今朝乗ってきたわよ。あなた、ほんとに限界超えてたのね。よく分かったわ」

そして、小さくため息をつくと、ぼそっと言った。

「……なんとかしてほしいよね、人手不足」

花音はその言葉に、思わず目を伏せた。
たしかに、それはずっと感じていたことだった。

でも、どこから声を上げていいかも分からない——そんなジレンマの中に、彼女もまたいた。
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