眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
イルカのぬいぐるみを抱いて、ソファに沈み込んでいた時だった。
スマホの画面がふわっと光り、バイブ音が室内に小さく響く。

画面には「早瀬匠」の文字。

花音は思わず微笑んで、すぐに応答ボタンを押した。

「はい、もしもし」

「こんばんは。今、平気だった?」

「うん、大丈夫です。どうかしました?」

「うん…いや、ただ、声が聞きたくなって」

小さく笑ってしまいそうになるのを堪えたが、頬の緩みは隠しきれなかった。

「どうしたんですか、急に」

「え、じゃあもうひとつ聞きたいことあるんだけど。次の休み、いつ?」

「えーと……3日後の水曜はお休みです。平日だけど」

「それ、奇跡じゃない? 俺も日勤だから、夕方からなら合流できる」

「ほんと? うれしい」

「じゃあ、夜ご飯、一緒に行こうよ。まだ“順序”を取り戻しきってないからさ」

「ふふ、じゃあ次は“普通のデート”ってやつですか?」

「うん。でも油断しないで。俺、普通でもちょっとスキンシップ多めかも」

「ちょっと、それは聞いてないです」

「今言ったから大丈夫。事前説明完了」

「ずるい……」

花音はクッションに顔を埋めて照れ笑いした。
けれど、その声は早瀬にもちゃんと届いていたようだった。

「……今、笑ったでしょ?」

「笑ってないです」

「嘘つき」

「嘘じゃないです」

「じゃあ、その笑ってない花音に、3日後会えるの楽しみにしてます」

「……うん。私も」

声を潜めるように、でも確かに答えると、しばらく沈黙が流れる。
でもそれは、居心地のいい静けさだった。

「じゃあ、おやすみ、花音」

「おやすみなさい、匠さん」

切ったあとも、スマホを胸に抱きしめるようにして、花音はしばらく動けなかった。
じんわりと広がる温かさに、イルカのぬいぐるみにそっと「ごめんね」と囁いて、代わりにスマホを抱いてしまったのは、ここだけの秘密。
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