眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
――杉並署・生活安全課。
夕方の休憩が明け、それぞれが席に戻り、詰め所にパチパチとキーボードの音が戻り始めた頃。

岡田が、ふと思い出したように声をあげた。

「新田さん、僕ずっと思ってたんですけど――あの、児相の佐原さんって、いいっすよね。一生懸命だし、あの清楚な感じ? なんか…綺麗系で。」

カタカタ、とキーを打つ音がぴたりと止まる。

早瀬はパソコン画面から目を離さず、無言のまま眉間に深い皺を寄せた。

新田がニヤニヤしながら、あえてそこに乗ってくる。
「だよな〜。あの現場対応の熱量、しかもちゃんと話せるタイプだし。意外と猫好きらしいぜ。…そのギャップがたまんねぇんだわ。」

ちら、と横目で早瀬の反応を盗み見る。が、早瀬は表情を変えず、ただ静かにタッチパッドを操作していた。

岡田は早瀬の沈黙に気づかぬまま、完全に調子に乗っていた。
「しかも、あの人声も落ち着いてて、癒されるっつーか。俺、たぶんああいう人に甘えたくなるタイプなんすよ。あー、職場で会えるの地味に嬉しいんだよなー。」

新田がコーヒーカップ片手に口角を上げる。
「岡田、お前そろそろ口滑らせると死ぬぞ。」

「えっ?」と首を傾げる岡田に、新田は視線で早瀬を指す。

岡田がようやく視線を移し、早瀬の顔を見ると――パソコンに目を向けたまま、こめかみに筋が浮いていた。

「……っあ、え、もしかして……え?」

岡田が青ざめた顔であたふたと手を振る。

「違うんですよ、別に変な意味じゃなくて、あの、尊敬というか、はい!その……!あれ、早瀬さん、何か飲み物いります!?僕、買ってきます!!」

早瀬はやっとゆっくりと顔を上げた。
「いや、いい。お前が何に癒されたいかは自由だけど――」

そこで一拍置き、冷静に言い放った。

「…次に言ったら、おまえ、杉並児相に顔出し禁止な。」

岡田は「ッス、すみませんでしたッス!!」と深々と頭を下げた。

新田は笑いを堪えながら、
「昭和の彼氏かよ、おまえ……」
と小声でぼそり。

早瀬はそれに気づかぬフリで、黙々と画面に視線を戻したが――耳だけ、すこし赤く染まっていた。
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