眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
冷房の効いた詰所に、レンジの「チン」という音と、弁当の匂いが混じる昼休み。

早瀬はいつものように、デスクで静かにコンビニおにぎりをかじっていた。

新田は缶コーヒーを片手に、足を組んで気怠そうにタブレットを眺めている。

そこへ、やけにご機嫌な岡田が食堂帰りに戻ってきて、ぽつりと漏らした。

「いや〜……やっぱり癒しですねぇ」

新田が「は?」とだけ反応すると、岡田は机の端に腰を乗せながら続けた。

「昨夜の児相対応の方。いやあ……なんていうか、こう、しっかりしてて、落ち着いてて、清楚で……あの雰囲気、たまらんっすよ」

言いながら、わざとらしく早瀬の視界の端をうろつく。

新田はチラッと早瀬を見て、すぐに察し、新田なりの“警告”を込めて言う。

「……岡田、おまえまた口滑らせると死ぬぞ」

それでも止まらない。

「いやいや、新田さん、僕知ってるんですから。夜勤の時、ね?あの空気で気づかない方が無理ってもんですよ」

早瀬は無言でおにぎりの包装を静かに折りたたみ、ゴミ箱へ放り投げる。

それすら岡田は面白がっている。

「だって僕、ぶっちゃけ狙ってましたし。いつも早瀬さんばっか、いいとこ取りじゃないですか。“ザ・刑事”って感じで。僕なんか、いつも平和な現場ばっかで……正直、華がないっす」

早瀬はようやくため息をついて、ペットボトルの水を一口飲んだ。

「……そのうち嫌ってほど、きつい現場に当たる。新人のうちだけだ、そんな呑気なこと言ってられるのは」

少しだけ声が低く、重さを帯びていた。

岡田が「うっ」と言葉を詰まらせた瞬間、新田が肩をすくめる。

「それとな、佐原さんを“可愛い”なんて思ってるうちは、まだまだお前は振り向いてもらえねえな」

岡田が「えっ」と目を見開いたまま固まる。

新田は続ける。

「命かけて守ります、くらいの覚悟持たないと。相手がどんな仕事してるか、ちゃんと見てから言えってこった」

そして、意味深に早瀬へ視線を送る。

「……なあ、早瀬?」

早瀬はその視線を一瞬だけ受け止めて、静かにうなずく。

「全く、その通りです」

そこに、余計な飾りも皮肉もなかった。
ただ、確信だけが込められていた。

岡田はすっかり黙り込み、ジュースのストローをじゅるじゅると吸いながら小さく呟いた。

「……はあ、俺、遠いなあ……」

新田は笑いを堪えきれず、「そりゃそうだ」とだけ呟いて、ふたたびタブレットに視線を戻した。
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