眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
「じゃあさ……たくみって、いつか“警部”になるの?」

食器を拭き終えたタイミングで、ふと花音が首をかしげながら聞いた。

「素朴な疑問なんだけど。」

匠はタオルをかけ直しながら、小さく笑って答えた。

「まあね、上司の推薦と、試験に合格しないといけないから。
……彼女の応援がないと、たぶん無理だわ。」

「ふふっ、じゃあたくさん応援するから頑張ってもらって〜。
新田さんに推薦してもらって〜、猛勉強してもらって〜……」

花音は指を一本ずつ折りながら、楽しそうに言葉を並べていく。

「で、いつか“警視正”みたいなやつになってもらおー!」

「いやいや、待って待って。」

匠が思わず笑いながら、手をひらひら振った。

「そこまで行く人、たま〜にいるけどさ……実は、逆に給料減るんだよ。
“警視”とかって、国家公務員の階級の一番下だから。給料テーブル的には損なの。」

「えっ……出世して損すんの?」

「うん、だからあのへんはもう“趣味の領域”だと思ってる。出世が趣味っていう人たちの世界。」

「趣味って何それ、怖い世界じゃん……」

花音がぷっと吹き出すと、匠も肩を揺らして笑った。

「でも、花音の応援があれば、警部くらいなら現実的かな。
……“児相にめっちゃ強い警察官”って噂されるくらいの。」

「うん、それでいこ。たくみ警部、いい響き。」

「語感だけで決めるのやめて。」

「いいじゃん、花音の彼氏が警部なんて、なんか守られてる感すごいし!」

「実際守ってるし。」

「知ってる!」

にやにやしながら背中を押されて、匠は食器棚にカチャリと最後の皿をしまった。

現実の話もしながら、ちょっと夢を見られる朝。
ふたりで過ごす時間が、またひとつ、何気なく特別なものになっていった。
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