眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
児相の相談室。
午後の個別協議の中で、花音は教育機関との連携パートを担当していた。

赤尾悠真のケース。学校側との連携は当初スムーズだったものの、ここ最近は明らかに手詰まり感が漂っていた。

「佐原さん、学校側のコンタクトどうなってる?」

三宅がそう尋ねた瞬間、花音は小さくため息をついた。

「……加納校長から、正式に連絡ありました。担任の市川先生、だいぶ参ってて。休みがちになってるって」

「えっ、そこまで?」

「香澄さんとのやり取り、あとクラス内での悠真くんのトラブル処理、それが毎日積み重なって……もう限界って雰囲気です。加納校長も“学校の協力は続けたいが、正直、現場は限界です”って」

一同の表情が引き締まる。

「……つまり、学校側の“静かな撤退”が始まってるってことか」

金子がぽつりと呟いた。

「市川先生に負担が集中してるのは分かってた。でも、他に引き継げる教員がいない。副担任も経験が浅くて、下手に切り替えるとかえって混乱するって……校長も悩んでました」

「それ、典型的な詰みパターンだな……」

三宅がデスクに肘をつく。
花音は、静かに続けた。

「私はもう一度、学校を訪問して、校内で分担やサポート体制の再調整ができないか探ってみます。個人的に副担任とも話をして、どう対応できるか……あと、スクールカウンセラーとの再連携も」

「そのへんは、いま花音が一番信頼されてると思うよ。香澄さんと直接やり取りしてるの、他にはいないから」

「うん……。ただ、学校に“これ以上頼るな”って無言の空気も出始めてて。ここでうまく接点作れなかったら、支援の継続が一気に危うくなる」

三宅と金子がうなずく。

「今後は児相側の関与を少し強めるしかないね。学校の観察報告だけに頼らず、家庭の状況や母親の反応をもっと精査して……場合によっては強制調査も視野に入る」

「はい、慎重に……でも、構える準備はしておきます」

花音はそう言って、自分のファイルに目を落とした。
悠真の名が書かれたページの隣に、新しい付箋を貼る。

【校内再訪:副担任、SC、加納校長】

子どもを守るために、動ける場所があるうちは、動く。
今が、その境目だった。
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