眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
赤尾悠真の通う小学校。
校長室へと案内された花音は、加納校長と、教務主任、副担任の若い教員・藤原先生と向かい合って座っていた。
「お忙しいところありがとうございます。市川先生の件、お話を伺えればと思って……」
そう切り出すと、加納校長は深くうなずいた。
「……実は昨日付けで、市川が正式に“休職”に入りました。心療内科の診断書が出ていて……メンタル面での回復に時間がかかるとのことです」
花音の胸がすっと冷える。
一番子どもに向き合ってくれていた市川先生が、ついに限界を超えてしまった。
「責任感の強い先生でした。悠真くんのことで、家庭と学校の板挟みになって……何度も自分を責めていたようです。私としても、本当に悔しい」
校長の口調には、校長としての悔しさと、教師仲間としての無力感が入り混じっていた。
「副担任の藤原先生が、当面、メインでクラスを見ていくことになります。ただ……経験も浅く、児相との連携にはまだ不安があると思います」
藤原先生が少し恐縮したように小さく会釈する。
「藤原先生、ありがとうございます。難しい立場かと思いますが……今後も無理のない範囲で、情報共有だけでも続けられるとありがたいです」
花音が柔らかく伝えると、藤原はおそるおそる口を開いた。
「……悠真くん、ここ数日少し荒れています。教室での立ち歩きや、他の子への軽い手出しも増えていて……“なんで先生変わったの”と何度も言われました」
「変化に敏感な子ですから……不安定になって当然です。支援者側の安定が、あの子にとっては命綱ですから」
「私……ちゃんと支えられるか、自信がなくて……」
その言葉に、加納校長が間に入った。
「佐原さん、この状況でも、学校として協力を拒むつもりはありません。ただ、やはり限界もある。担任が倒れたことで、現場の空気は重くなっています。悠真くんだけの問題じゃないんです」
「……はい。だからこそ、児相側でできる部分を増やしていくつもりです。無理のない協力関係に切り替えるために、今回お時間をいただきました」
「その姿勢は本当にありがたい。どうか……悠真くんの“環境を整える”方向で、私たちにもできることがあれば言ってください」
花音は深くうなずいた。
市川先生の抜けた穴は大きい。
だが、それを理由に“支援の手”を緩めるわけにはいかない。
「ありがとうございます。では……まず今週中に、藤原先生とも共有できる簡易な観察記録のフォーマットを用意します。負担を減らしながらも、継続的に様子を把握できるように」
「お願いします……佐原さん、ほんとに、助かります」
再び藤原が頭を下げる。
学校も、現場も、限界を迎えていた。
だからこそ――ここから、また「再構築」していく。
花音は、校長室を出るとき、心の中で静かに決意した。
校長室へと案内された花音は、加納校長と、教務主任、副担任の若い教員・藤原先生と向かい合って座っていた。
「お忙しいところありがとうございます。市川先生の件、お話を伺えればと思って……」
そう切り出すと、加納校長は深くうなずいた。
「……実は昨日付けで、市川が正式に“休職”に入りました。心療内科の診断書が出ていて……メンタル面での回復に時間がかかるとのことです」
花音の胸がすっと冷える。
一番子どもに向き合ってくれていた市川先生が、ついに限界を超えてしまった。
「責任感の強い先生でした。悠真くんのことで、家庭と学校の板挟みになって……何度も自分を責めていたようです。私としても、本当に悔しい」
校長の口調には、校長としての悔しさと、教師仲間としての無力感が入り混じっていた。
「副担任の藤原先生が、当面、メインでクラスを見ていくことになります。ただ……経験も浅く、児相との連携にはまだ不安があると思います」
藤原先生が少し恐縮したように小さく会釈する。
「藤原先生、ありがとうございます。難しい立場かと思いますが……今後も無理のない範囲で、情報共有だけでも続けられるとありがたいです」
花音が柔らかく伝えると、藤原はおそるおそる口を開いた。
「……悠真くん、ここ数日少し荒れています。教室での立ち歩きや、他の子への軽い手出しも増えていて……“なんで先生変わったの”と何度も言われました」
「変化に敏感な子ですから……不安定になって当然です。支援者側の安定が、あの子にとっては命綱ですから」
「私……ちゃんと支えられるか、自信がなくて……」
その言葉に、加納校長が間に入った。
「佐原さん、この状況でも、学校として協力を拒むつもりはありません。ただ、やはり限界もある。担任が倒れたことで、現場の空気は重くなっています。悠真くんだけの問題じゃないんです」
「……はい。だからこそ、児相側でできる部分を増やしていくつもりです。無理のない協力関係に切り替えるために、今回お時間をいただきました」
「その姿勢は本当にありがたい。どうか……悠真くんの“環境を整える”方向で、私たちにもできることがあれば言ってください」
花音は深くうなずいた。
市川先生の抜けた穴は大きい。
だが、それを理由に“支援の手”を緩めるわけにはいかない。
「ありがとうございます。では……まず今週中に、藤原先生とも共有できる簡易な観察記録のフォーマットを用意します。負担を減らしながらも、継続的に様子を把握できるように」
「お願いします……佐原さん、ほんとに、助かります」
再び藤原が頭を下げる。
学校も、現場も、限界を迎えていた。
だからこそ――ここから、また「再構築」していく。
花音は、校長室を出るとき、心の中で静かに決意した。