眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
数日後の当直。

夕方を過ぎ、児相のフロアには徐々に夜の気配が満ちていた。
外はもう薄暗く、窓の向こうには雨になりそうな重い雲が広がっている。

花音は当番席で、資料の確認を終えたところだった。学校・医療・家庭、三者の連携もようやく軌道に乗り始めた感触がある。

香澄からの応対もあり、次の訪問も約束されている。焦らず、少しずつ。
道は細くても、進んでいるはずだった。

そのときだった。

受信音が控えめに鳴り、パソコンの画面右下に通知が表示された。

件名:【要対応】赤尾悠真くんについて(無断欠席)

送信:杉並第五小学校 加納校長

花音はすぐにメールを開く。

佐原様

お世話になっております。標記の件、念のため共有いたします。

赤尾悠真くんが、今週月曜から本日まで3日間、無断で欠席しております。

担任からは数回にわたってお母様に電話連絡を試みましたが、繋がっておりません。

明後日の児相訪問にご同行予定とのことですが、何かお気づきの点があればご教示いただければ幸いです。

加納

読み終えた瞬間、花音の胸の奥に、ひやりとした感覚が走る。

3日間、連絡が取れていない。
この数日で何かが、また静かに崩れ始めているかもしれない。

(明後日……行けるだろうか、いや、行かなきゃ)

ディスプレイの光が、夜の帳に沈む部屋でひときわ冷たく感じられた。

目の前の書類に目を落としながらも、思考はそこに留まらない。

香澄の顔が浮かぶ。
無表情で、時にふいに涙を見せたあの目。
あのときの言葉が、また頭をよぎる。

――「寝れないの、悠真が夜泣きするの。もう大きいのに」

花音は静かに席を立ち、コーヒーを淹れに給湯室へ向かった。

けれど、胸の中に渦巻く不穏な影は、もう消えてはくれなかった。
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