眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
冷たい雨に濡れたまま、花音は無言でロッカーに荷物をしまい、まっすぐ朝岡の席へ向かう。
まだ濡れた髪が頬に張り付いていた。
「……家庭訪問、行ってきました」
いつもの柔らかな声ではない。
朝岡はすぐに画面から視線を上げ、表情を引き締める。
「香澄さん、いたの?」
「はい。出てきたのは悠真くんでした。……母親は、薬を服用して、部屋の床に座り込んでいました。顔色も悪かったですが、意識はありました」
花音は、深く息を吐いた。
「香澄さん、“私なんていない方がいい”って……はっきり言いました」
朝岡の表情が変わる。緊張がその輪郭を強めていく。
「それは……希死念慮の可能性、あるね。OD(オーバードーズ)含めて。」
「はい。部屋にあったのは、今のところは市販薬だけでしたが……悠真くんは“お母さん、お薬飲んで寝てる”って言ってました」
「本人に通院の意志は?」
「いまのところ見られません。でも、反応はありました。話は通じます。……ただ、ものすごく、脆い状態です」
朝岡は、手元のメモ帳に短く要点を書き込みながらうなずいた。
「わかった。すぐにケース全体を“リスク上げ”の対象にして、対応体制も見直そう。医療機関は中島さんのクリニックだっけ?」
「はい。中島さんには状況を逐一共有します。医療的なフォローは頼めるはずです」
「学校への情報共有も忘れずにね。悠真くん、今も欠席中?」
「はい、5日連続の無断欠席です」
朝岡はしばし黙って考えると、少しトーンを落として言った。
「……この段階の“いなくなりたい”は、予兆じゃなくて“ほぼ計画段階”として見た方がいい。特に、子どもに対する罪悪感を語るときはね。ODの危険性も含めて、最悪のシナリオを前提に動こう」
花音は黙って頷いた。
背中の奥がじわりと重くなる。
(間に合うのか――いや、絶対に、間に合わせる)
そのまま、再び席に戻った花音は、香澄のカルテに今日の記録を打ち込み始めた。
キーを打つ指が、いつもより速かった。
まだ濡れた髪が頬に張り付いていた。
「……家庭訪問、行ってきました」
いつもの柔らかな声ではない。
朝岡はすぐに画面から視線を上げ、表情を引き締める。
「香澄さん、いたの?」
「はい。出てきたのは悠真くんでした。……母親は、薬を服用して、部屋の床に座り込んでいました。顔色も悪かったですが、意識はありました」
花音は、深く息を吐いた。
「香澄さん、“私なんていない方がいい”って……はっきり言いました」
朝岡の表情が変わる。緊張がその輪郭を強めていく。
「それは……希死念慮の可能性、あるね。OD(オーバードーズ)含めて。」
「はい。部屋にあったのは、今のところは市販薬だけでしたが……悠真くんは“お母さん、お薬飲んで寝てる”って言ってました」
「本人に通院の意志は?」
「いまのところ見られません。でも、反応はありました。話は通じます。……ただ、ものすごく、脆い状態です」
朝岡は、手元のメモ帳に短く要点を書き込みながらうなずいた。
「わかった。すぐにケース全体を“リスク上げ”の対象にして、対応体制も見直そう。医療機関は中島さんのクリニックだっけ?」
「はい。中島さんには状況を逐一共有します。医療的なフォローは頼めるはずです」
「学校への情報共有も忘れずにね。悠真くん、今も欠席中?」
「はい、5日連続の無断欠席です」
朝岡はしばし黙って考えると、少しトーンを落として言った。
「……この段階の“いなくなりたい”は、予兆じゃなくて“ほぼ計画段階”として見た方がいい。特に、子どもに対する罪悪感を語るときはね。ODの危険性も含めて、最悪のシナリオを前提に動こう」
花音は黙って頷いた。
背中の奥がじわりと重くなる。
(間に合うのか――いや、絶対に、間に合わせる)
そのまま、再び席に戻った花音は、香澄のカルテに今日の記録を打ち込み始めた。
キーを打つ指が、いつもより速かった。