眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
サイレンが遠ざかっていく。
その音に、早瀬はしばらく耳を澄ませていた。
(……頼む、助かってくれ)
わずかに震える指先を握りしめながら、視線を地面に落とす。
アスファルトの上に残る、彼女の素足の跡。
その儚さが、やけに胸に刺さった。
「――早瀬!」
階段を駆け上がってきた新田の声が、静寂を破った。数名の署員がその後に続いている。
早瀬が顔を上げると、新田はすぐに近くの署員たちを手早く集めて、短く鋭く告げた。
「赤尾香澄の息子、赤尾悠真。現在所在がわからない」
署員たちの顔に、緊張が走る。
「居住地周辺の公園、駐車場、コンビニ、ゴミ捨て場、倉庫、どこでもいい。とにかく徹底的に探せ。写真と服装、その他の詳細は、各自の端末に送った。端末確認しながら動け!」
「了解!」
号令と共に、それぞれの方角へと散っていく署員たちの足音が団地中に響く。
その様子を横目に見ながら、岡田がそっと近づいてきた。
「早瀬さん……大丈夫ですか?」
一瞬、返事に詰まりそうになる。けれど、早瀬はゆっくりと頷いた。
「……ああ、大丈夫だ。ありがとう」
そして視線を遠くにやり、低く呟いた。
「探そう。悠真くんを――絶対に、見つける」
その声に、岡田も力強く頷いた。
陽は高く、秋晴れの光が団地の壁を照らしていた。
穏やかな昼下がり――それでもどこか、空気はざわついている。
不穏と祈りが入り混じる、その境界の中で、捜索が静かに、しかし確実に始まろうとしていた。