眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
お風呂が湯を張る音が、静かな部屋に控えめに響いている。
その間、花音は匠の膝の上にちょこんと座らされ、まるで宝物を抱えるように、彼の腕に包まれていた。

匠は、何度も何度も愛おしそうに彼女の顔を見つめてくる。
その視線に、さすがに気恥ずかしくなった花音が、眉を寄せて言った。

「……そんな見ないでよ」

「いや、見張ってなきゃ」

即答だった。

「……ガン見で見張る?」

思わず半笑いで問い返すと、匠も吹き出しながら、少しだけ力を緩めて言う。

「そうだよ。じっと、見つめて、見張る」

「……ふふっ。変な人」

花音はくすぐったそうに笑って、またそっと彼の胸の中に収まった。
匠は、何も言わずに彼女の背中を、優しく、ゆっくり、何度もさすっていく。

そのぬくもりに包まれながら、匠がぽつりと問いかける。

「……もう、苦しくない?」

花音は、その問いの意味をちゃんとわかっていた。
身体のことだけじゃない。
心も――きっと、そういうことだ。

だから小さく、でもはっきりと頷いた。

「うん。大丈夫」

その言葉に、匠の手の動きがほんの少しだけ緩む。

そして、何も言わずに、彼はまた、そっと彼女を抱きしめた。
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