眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
ふいに、匠のスマホが何度も震え出した。
低く響くバイブ音が、静かな部屋にじわじわと存在を主張してくる。

花音が匠の腕の中から顔を上げる。

「……出なくていいの?」

けれど匠は首を振って、花音の髪にそっと唇を触れるくらいの距離で囁いた。

「花音との時間のほうが大事」

その言い方があまりに真顔で、思わず花音が笑う。

「お仕事だったらどうするの? 新田さんからだったら?」

匠は片眉を上げて、即答した。

「スルーする。今日は休みなんだから」

「……強気だね」

「俺、現代人だから」

その言葉に、花音が噴き出した。

「なにそれ、どこの自己紹介? 現代人て……」

「俺は平成生まれですから」

さらっと言いながら肩をすくめる匠に、花音はにやりとからかうように返す。

「じゃあ、新田さんは?」

「昭和生まれ」

「言うと思った」

そんな軽口を交わしているうちに、スマホはまた震えた。

「……しつこいな」

と言いながら、ようやく匠がスマホを手に取る。
着信画面を花音に見せるように傾けると、そこには「母さん」の文字。

「母さんだわ」

と、少しだけ肩の力が抜けたように言って、苦笑いを浮かべる。

「……これはさすがに、出ないと怒られるやつかも」
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